コーヒーカップとドーナツ

ぼくが得ているトポロジーの知識は、以前NHKで放送していた「ポアンカレ予想」についてのドキュメンタリー番組（『100年の難問はなぜ解けたのか（2007年・2009年）』）によるものがほとんどすべてだ。それによれば、トポロジーは物事を大雑把にやわらかく捉える数学の分野とのことだった。それにしてもドーナツとコーヒーカップが同じとは、そこまでやわらかくして本当に大丈夫なのかと素人ながら心配である。

ぼくが学生だった頃の数学の未解決問題といえば「フェルマーの最終定理」と相場が決まっていた（名前しか知らないですが）。それが解決されたあと、数学素人の耳にも届くようになった別の未解決問題のひとつに「ポアンカレ予想」があった。これも証明されたということでニュースになったのだと思う。

番組中の解説によれば、ポアンカレ予想とは「宇宙の形をおおまかに知るための問いかけ」とのことだった。
決して外側から眺めることのできない宇宙の形を捉えるには、おかたい数式なんかじゃなく、もっとやわらかくて大雑把な考え方が必要なんじゃないか。
とのことで発展したのが、トポロジーの分野なのだと。

数学の教授は、ドーナツとコーヒーカップは同じだといっていた。要は、「多少の形の差なんか気にせず、目にみえる『穴の数』で物体を分類」してしまう。
上の写真のドーナツとカップ、いずれも貫通している穴がひとつ（カップなら取っ手部分）ということで、同じ物として扱うのだと。

ちなみにドーナツが急にバウムクーヘンに変わったのは、ドーナツの穴に指を入れたらチョコがべっとりついて気持ち悪かったからである。まあ、ドーナツでもバウムクーヘンでも、「ざっくり同じ」ということで了解いただきたい。

それにしてもトポロジー、受験勉強の数学には決して感じられなかった、ものすごい適当な物言いである。井上陽水の往年のCM、『食う・寝る・遊ぶ』に匹敵するいい加減さだ。あれは子供ながらに「それでいいのか！？」と叱咤したい気持ちであったが、トポロジーもまた、陽水と同じ不安をぼくに感じさせる。

しかしながら、かつて微分積分の問題がまったく解けず第一志望に落ちて埼玉へと進学したぼく（※）にとっては、「そんな数学なら大歓迎！」という思いもある。

感覚的に理解するために

「同じだ」といわれてもすんなり納得できないトポロジー的考え。

「ドーナツにあって饅頭にない。マグカップにあって湯のみ茶碗にない」
「えーと、穴！」
十数年前に流行った『あるなしクイズ』ばりのお手軽さで数学をお届けしてくるトポロジー。
なんとか目の前にある物体で理解できるようにならないのか。

衣服のトポロジー

お菓子とマグカップばかりをみていても理解は進まない。ほかの身近なもの、身近どころか毎日身につけている衣服をトポロジー的に眺めてみた。

一見穴は3つ（腰の部分と、足を出す部分にふたつ）あるように感じるが、腰の部分を穴の入り口と考え、足の部分が出口だと捉えると、出口が2つ＝貫通した穴の数は2つということになる。

同じように、下の入り口から入って出口が3箇所（頭と腕2本）。貫通している穴の数は3つとなる。
つまり、穴の数が違うのでトポロジー的にはズボンとTシャツとは異なる物ということになる。

ズボン ≠ Tシャツ

なのでトポロジーの観点からいっても、

ということになる。
そして実際に試してみて、「あ、これダメだわ」と、感覚的にも納得できた。トポロジーとぼくの実感とが、歩み寄った瞬間である。