大吉と秋雨
「シャッターを押してください」とまったくお願いれず、暇で暇で仕方がなかったのでおみくじを引いた。浅草寺のおみくじは「凶」が出る確率が高いそうだけれど、僕は見事に「大吉」を引き当てた。
その後、せっかくやんでいた雨がまた降り始めた。 仕方なく近くのファミリーレストランで雨宿りをすることにした。雨が降ると、写真を撮る人が減るのだ。晴れていても一向にシャッターを押してくださいとお願いされないのに、雨が降ればなおさらだ。
カメラに詳しいです作戦
雨がやんで、また門に繰り出した。 先ほどまでの、何もしなくてもお願いされるはずという高飛車な考えをやめ、芥川賞をくれと審査委員に手紙を書いた太宰治のように、こちらからアピールをすることにした。
きっとシャッターを押してくださいとお願いする人も、カメラのことを全然知らない素人よりも、カメラのことを知っている人に頼みたいはずだ。少し遠くても腕がいいと評判の歯医者さんに行くのと同じだ。せっかくなら綺麗に撮って思い出に残したいはずなのだ。なので、コンデジではなくデカいカメラを首からぶら下げ「カメラに詳しいですよ」をアピールすることにした。
誰一人として声をかけてくれなかかった。考え方としては違ってなかったと思うのだけれど。 ちなみに僕が首からぶら下げていたカメラは、父がどこかからか拾ってきた、故障してピクリとも動かないカメラだ。そんなカメラをクビからぶら下げて一人立っているのは、最近テレビで見なくなったタレントが調子がいい時に出した本をブックオフで大量に見かけた時と同じような、なんともいえない悲しさを感じた。
親切な七三作戦
カメラ作戦をあきらめた。きっと敷居が高かったのだ。カメラに詳しそうな人にコンデジを渡し「シャッター押してください」というのは少し気が引けたのだと思う。 そこで、今度は親切な人をアピールすることにした。
僕だけかもしれないけれど、七三の人を見ると親切な人の気がする。政治家に七三が多いのもきっとこの効果を狙ったものだ。また、ホテルマンなども七三が多い気がする。ホテルマンは親切だ。むかし何かで「ホテルマンにノーはありません」と言っていた気がする。七三は親切の象徴なのだ。
40分くらいボーと立っていたら「シャッター押してください」と男性3人のグループに声をかけられた。湿気や風で、もう髪が七三を保てなくなっていた頃だ。だから、「シャッターを押してください」に七三は何の力もなかったのだと思う。ちなみに、この人たちは大阪から3人で旅行に来たそうだ。なんだか、楽しそうだった。