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ちしきの金曜日
 
一刀彫で作るセロテープスタンド

背後霊のようなセロテープスタンド

まずは「横型」を彫ります

セロテープスタンドの要となるのは、「切断部」と「回転部」の距離。市販のセロテープスタンドを参考に、二つの部分の位置を決め、マジックで木に線を描く。

続いて、横からの見た目が、それと同じようになるように彫っていく。

カンカンやかましいんで、近所の公園で彫る。
意外とさくさく削れる

「谷」部分、ほぼ完成。

続いて「切断部」の造形に入る。


真夏、無我の境地へ

季節は真夏。
真昼には木陰で、夕方は西日を浴びながら、夜は蛍光灯に蛾が集まる中、僕は彫り続けた。


菩提樹の下の仏陀のような居ずまいに。

まさに大自然とともに呼吸しながらの一刀彫への挑戦となった。気持ち的には仏像でも彫っているほど雄大な心持ちになれたが、現実として彫っているのは事務用品のセロテープスタンドだ。
公園で彫っている間、一番おそれていたのが「何彫ってるんですか」と、通りすがりの人に聞かれることだった。もし聞かれたら、セロテープスタンドなんて答えるとめんどくさくなるだけだし、仏像と答えても同じことになりそうなので、「妖怪像です!」と答えようと心に決めていたのだが、無事聞かれることは無かった。平安時代の仏師並みの気迫が出ていて、話しかけられなかったのかもしれない。もしくは公園でノミと木づち持ってる人とか怪しすぎて近寄れなかったのかも知れない。


目を上げれば、いつしか夕焼け。ノミをかざす。


日が暮れてなお、ノミと木づちを振るう。やがて夜が更ける。


無心で彫り続けるうちに、いつの間にかあたりは暗くなっていた。幸いこの公園には明るい照明がある。僕は明るい場所へ移動し、集まってくる蚊を払いながら彫り続けた。明かりにはコガネムシやカミキリムシも集まってくる。さらに花火をする若者の群れも公園に集まってきて、僕をいぶかしそうな目で眺めていった。そのあとスケボーをする人たちまでも集まってきて、僕の彫っている真後ろでガーッゴーッと練習を始めた。
夜の公園にはいろいろ集まってくるな、と思いながら僕は彫り続け、夜中になったので部屋に帰った。


ノミは刃物なので、手で押して直接削ることもできる。

続いて「テープ溝」の彫りに移る。


土台部分はほぼ完成。難関の「軸受け」彫りに挑む。

一刀彫は「一刀」でなくてもいい!?

彫りながら調べていって知ったのだけれど、一刀彫とは、一つの刃物だけで彫る木彫りのことだけを指すのではないらしい。「一つの小刀だけを用い」、と書いてあるサイトもあったが、「大小さまざまなノミを駆使し……」と書いてあるサイトもあった。色々調べたが正しい定義は分からなかった。おそらく無いのだろう。でもここまで来たからには名前どおり、このノミ一本だけで彫ってやろうと思う。

というわけで、もっとも彫りにくいと思われる「軸受け」部分も、ノミ一本で頑張って彫ってみた。

左右のバランスに気をつけ、少しずつ。
こんなもんでいいかな?

ちゃんとはまった!

あとは「テープ輪」の自作

既製品の「テープ輪」をそうっとはめてみたところ、無事装着に成功した。バランスよくカラカラクルクルと回る。
ここまで来れば完成は近いが、まだ難関が残っている。「テープ輪」だ。一刀彫セロテープスタンド、「テープ輪」も木で彫らなければ本物とは言えない。しかし細やかさを必要とするテープ輪は「土台部」に対して圧倒的に難易度が高い。軸のバランスが崩れたら回転もよたよたになってしまう。これをどう作るか、それが最大のポイントとなった。そして僕が選んだ選択を、次ページで紹介したいと思う。


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