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ちしきの金曜日
 
皆既日食の個人的反省点2009

日本で観測できるのは46年ぶりという皆既日食が先日やって来た。日食の時間、みなさんはどんな感じで過ごしたでしょうか?

次回の皆既日食は26年後の2035年。次こそしっかり見たいが、その頃には今の記憶もほとんど忘れてしまい、また同じ過ちを繰り返すのが目に見えている。なので反省の意味も込めて、ヘボいながらもそれなりに感動的だった私の日食鑑賞レポを記事として残しておきたい。

T・斎藤



いろいろわかってなかった

日本で見られるのは46年ぶりという皆既日食を見に行った。

「見に行った」と言っても、奄美とか悪石島に行ったのではない。うちのベランダからだと角度的に見えづらかったので車で近くの公園に行っただけだ。

準備も直前まで何もしてなかった。
というか、“皆既日食はすごい”ということがいまいちよくわかってなかった。2、3日前にテレビで宇宙飛行士の毛利さんが
「あれでその後の人生感が変わりました。」
と言っているのを見て、ようやく興味が沸いてきたという感じだった。

というわけで、まったく準備がなってない日食観察である。
日食グラス?
もちろん持ってない。

撮影方法

撮影方法についても直前になってからネットで調べた。
減光フィルター(NDフィルター)が必要と書いてあったので、カメラ屋に行き、光量を8分の一(絞り3段分)に抑えるND8というフィルターを買って来た。

フィルターというのは、カメラのレンズの前に取り付ける薄いガラスのことである。


NDフィルター。

が、家に帰ってからもう一度よく撮影方法を読んでみたところ、「ND10000」という日食専用の減光フィルターを使えと書いてあるではないか。というか、ND10000ってなんだ?思わず0の数を数えてしまうくらい数が大きい。それは光量を1万分の1まで抑えるというもので、つまりそれくらい太陽光は強力なんだそうだ。

が、そんな特殊なフィルター、うちの近所ではもちろん売ってないしネットで取り寄せてももう間に合わない。そもそもネット上でも売り切れで、すぐには手に入らない状況だ。

まあでも、ND8でも無いよりはマシだろう。
とりあえずこれでどこまで撮れるかやってみることにした。


教訓1: 日食撮影をするなら専用のフィルターを事前に入手しておくべし。

「かっこ悪い」と評判だった撮影ポーズ。
なぜ三脚をもう一段伸ばさなかったのか?と後で冷静に見て思う。

開始

私が住んでいる長崎では、
9時半頃から太陽が欠け始め、11時くらいが最大日食。
欠け終わるのが12時くらいとのこと。

10時ちょっと前に見晴らしのいい公園に到着。
心配していた天気も、雲の合間から太陽が見隠れしており、顔を覗かせた時はいい感じに日差しが降り注ぐ。

あらためて見ると、太陽はものすごく眩しい。
さすが太陽。


うへっ、眩し! (1/600 F13 ISO100 ND8使用)

日食鑑賞には専用の眼鏡がないと危険です。
と、テレビやラジオでしきりと言っていた。
でも既にどこに行っても売り切れてるらしい。

そういえば、一ヶ月くらい前にジャスコのおもちゃ売り場で見かけたなぁと思って、日食が始まってる最中に電話してみた。が、やっぱり売り切れだった。どうして見かけた時にすぐ買わなかったのか? 買えないと分かったら猛烈に欲しくなり、日食が終わった後でも見つけたら買うぞ、とその時は思った。


教訓2: 日食観賞用グラスは見かけたら即購入すべし。

怪しいピンホール

この日は、かみさんも日食を見るために仕事を休んだので、一緒に出かけた。

日食のために仕事休むって、どんだけ熱心なんだよ!?
という感じだが、かみさんもまた直前の思いつきなので日食グラスとかは持ってない。

そんなかみさんが準備したアイテムはこれだ。


サランラップの芯にアルミを貼ったもの

直接太陽を見るのは紫外線で目をやられるので大変危険!ということで、テレビで紹介していた鑑賞法のひとつが、ピンホールレンズの手法だった。

と言ってもピンホールの仕組みがいまいちわかっておらず、雰囲気だけで作ったようだ。

さすが、たまたま休日出勤の振替が溜まってて、総務の人から早く休みを取るように言われて休んだだけのことはある。


欠けてる…?

さっそく、銀紙に空けた穴を通して
できた影でから太陽の形を見る。
「あ、ほら!ちょっと欠けて見えるよ!」
とかみさんが興奮しながら言った。

が、それも束の間、しばらくすると
「銀紙の穴がちょっと欠けててそのカタチを見てるだけかも。」
と言い直していた。


銀紙にあけた穴のカタチに一喜一憂していたかみさん。

一方、私の方はといえば。
太陽光でカメラの内部が焼け付くかもとネットに書いてあったので、念のためレンズには帽子をかぶせておき、撮る瞬間だけ帽子を外して撮る作戦に出た。


撮らない時はレンズに帽子をかぶせておいた。

一眼レフのカメラはシャッターを開いてない時、レンズから入った光はミラーで反射してファインダーに抜けるのでたぶん大丈夫だろうとは思うが、万が一ということで。

撮る時だけ帽子をサッと外す。

目に悪いので、構図を合わせる時以外は極力ファインダーを覗かない。というか、覗けない。構図を合わせる一瞬だけでも、けっこう目がくらくらする。前日夜遅くまでPC作業をしてたので、脳ミソが直接侵食されどんどんバカになってる感じがした。

が、幸いなことに雲がいいあんばいに出てきてフィルター代わりになってくれた。私の機材でも撮れる&鑑賞できるようになったのだ。


日食撮れてる! (1/4000 F22 ISO100 ND8使用)

デジカメの液晶画面で見て
これが写ってるのを確認できた時は感動した。

ほら!
みんな見て見て!
ほら!

って感じだった。


教訓3: 準備が不足してる者にとっては曇ってる方が都合がいいとは知らなかった。

日食の部分だけをトリミングして拡大。(1/8000 F40 ISO100 ND8使用)

という感じで写真ではバリバリ日食が確認できたが、
この時間帯はまだけっこう光線が強く、肉眼で確認するのは厳しい。

かなり切実に日食観測グラスが欲しかった。


少し絞りを開けるとたちまちビカーッとなってしまう。 (1/8000 F22 ISO100 ND8使用)

露出はすべてマニュアルで合わせた。
2つ前の写真とか、絞りがF40でシャッタースピードが8000分の1。私のNDフィルターで撮れる限界だったかも。こんな設定で撮ったのは初めてだ。同じ時刻で絞りを少し開けてみたのが上の写真。太陽光の強さが伺えよう。

どんどん欠けてくるよ! (1/2500 F13 ISO100 ND8使用)

というわけで、ものすごく興奮してワーワー色めき立っていたのだが、そんな我々をよそに、遠くでは子供達がまったく平常心でブランコ遊びに興じていた。

日食に関係なくブランコを漕いでいた子供たち。
しかしこのダイナミックさは日食の影響か?(10:25)

教訓4: すべてのものが日食と関係があるような気がしてくる。

日食が進むと、三日月そっくりになってくる。 (1/1000 F32 ISO100 ND8使用)

やがて、雲の量がどんどん増えていって、
また日食に伴い太陽の光もいくぶん威力を失い
肉眼でもハッキリ確認できるくらいの光量になった。


こうなってくるともうNDフィルターの必要性も微妙なところ。 (1/640 F40 ISO100 ND8使用)

教訓5: それでもやっぱり日食グラスは欲しい。
(肉眼だとずっとは見上げてはいられないので。あと紫外線が心配。)


すっかり雲に隠れてしまった。空がだいぶ暗くなってきた。

こうなるとかみさんも直接鑑賞。

「あれ、虹じゃない?」
とかみさん。見るとたしかに、遠くに虹のようなものが見えた。すごく太い虹だった。

(それを写真に撮らなかったことをちょっと後悔…。)


教訓6: 気になった周辺事情はとりあえず撮っとけ。
日食の写真は後で見返したら同じような写真ばかりだし、もっといいのがニュース等で見られる。一方、自分が気がついた自分の周辺事情は自分しか撮れない。

と思ったら、わずかに虹らしきものが写ってた。見えるだろうか?

細くなったなー。 (1/50 F40 ISO100 ND8使用)

暗い空。

皆既日食になって太陽が完全に月に隠れると、夜のように辺りが暗くなり星が見えたりもする、とテレビで言っていた。長崎は皆既日食にはならないが、90%以上の食だからどんなもんだろうかと楽しみにしていた。


薄さ的にはこれが今回のベストショットだろうか。 (1/15 F40 ISO160 ND8使用)

曇っていたのでわかりずらかったが、
ピークと思われる時、辺りは夕方くらいの暗さにまでなった。

ピーク時は、夕方くらいの暗さになった。

「夜のよう」とか、「星が見える」からは程遠い。

我々以外にも、ほっかむりしたおばちゃんが寝転がって見ていて、細い太陽が雲の隙間から見えるたびに歓声を挙げていた。


ピークを過ぎると、今度は徐々にまた戻っていく。 (1/80 F36 ISO100 ND8使用)

(1/125 F40 ISO100 ND8使用)

かみさんが手帳のカレンダーを見ながら
「手帳にも日食のマークが書いてある!
…と思ったら月の満ち欠けの印だった。」
と言った。

この日のこの時間がちょうど新月らしく
海を見たら、満潮で海面があふれそうになっていた。

毛利さんはテレビで
「自然と繋がってることを体感できる機会です。」
と言われていたが、私も自然との一体感をちょっとだけ感じた。


超満潮。自然との一体感を小さく体感。

誰かにこの興奮を報告したい!と思い、ここでウェブマスター林さんに電話してみた。東京はどんなもんかってのも気になっていたし。

が、出ない。
Twitterを見たら、林さんは徹夜で日食用の企画ページを作っていたようなので、もしかしたら力尽きて寝てしまったのかもしれない。

編集部・安藤さんにも電話してみた。が、同じく出ない。
みんな何してるんだろう?


(1/125 F45 ISO100 ND8使用)

教訓7: 仕事してたのかもしれない。
ということには気付けなかった。

日食の面白さがわかった

 家に帰ってからニュースを見たら悪天候でよく見えなかった地域が多く、長崎はけっこうよく見えた方だったことを知った。

 皆既日食が見られるはずだったトカラ列島の悪石島などは暴風雨だったそうで、ガックリと肩を落とす観測者の写真は
「この写真ピューリッツァー賞もんだろ」
と知人がコメントするほどガッカリ感を表現したものだった。

 一方、最高の勝ち組は船で観測した人々で、その様子を見たら「これに乗りたかったなぁ」と思ったものの、悪石島の人々は今頃「畜生!」とか言いながら酒飲んでるのかと思ったら、その連帯感は相当なものじゃないかと思い、むしろそっちに行ってみたかったとか思ったり。

 次回は、私も皆既日食鑑賞を狙ってアクションを起こしたいと思う。かみさんもすっかりやる気になっていたし。

 - - -

 日食後、ピンクの短パンをはいたおじさんが、腰のギリギリの高さまでそれを持ち上げ、堂々たる姿勢で歩道を歩いていた。これも日食の影響か?とか思わせるものが日食にはあった。


 
 

 

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