波が荒い

ホタルイカ捕りは、波打ち際にウェーダーを履いて膝まで海に浸かって、はるばる深海から泳いできたホタルイカをライトで照らして網で捕まえる訳だが、今日は地味に波が荒い。

結構な勢いで攻めてくる波が、時として腰あたりまで襲ってくる。なるべく沖側に出た方が捕れそうな気がするのだが、この海岸はちょっといくとすぐに深くなっているため、おっかなくて攻めきれない。

波は荒いし、水は冷たい。体が芯から冷えてくるし、砂浜で踏ん張っている足腰が痛くなってくる。

でも楽しい。すごい楽しい。

ウナギ釣りもアナジャコ釣りも、はじめの一匹を釣るまでのプロセスが最高に楽しいように（といわれても一般性のない話なので、男女間の関係とかに置き換えてください）、今まで捕ったことのないホタルイカという生き物を捕まえようとしているこの時間が楽しくない訳がない。

フグが捕れた

網を振り回し始めてから30分ほど経ったのだが、まだ一匹も捕れていない。捕れていないというか、波が高くてホタルイカを一回も見つけられていない。どういう状態でホタルイカが泳いでいるのかをイメージできていないのも見つけられない要因だろう。あと持ってきたライトが暗い。上州屋でホタルイカ用のいいやつを買ってくればよかった。

今宵はどうにも浜全体が不調のようで、たまに「捕れたー！」という声が遠くから聞こえてくるが、一匹捕れたことで大騒ぎする程度の状況ということだ。

それでも我慢強く波に目を凝らしていると、たまにコロッケくらいのなにかが波に乗ってすごい速さで泳いでいるのが見えた。明らかにホタルイカではないが、とりあえずなんでもいいから一匹捕まえたいので網を出してみた。もしかしたらコウイカかもしれないし。

網をライトで照らすと、黄色っぽいプクプクした生き物が二匹いっぺんに入っていた。

これはええと、フグか。この模様はヒガンフグかな。

野生のフグを網で捕るっていうのもある意味素敵な体験なのだが、残念ながらフグ調理師免許を持っていないのでリリース。フグを釣ったり捕ったりするたびに、免許を持っていない自分が恨めしくなる。

フグは食べられないので捕ってもしょうがないのだけれど、泳いでいるのを見かけたら本能的に捕らざるを得ないので、このあとも３匹捕まえた。

ようやくホタルイカが一匹捕れた！

海に来てから一時間経過。「ホタルイカ捕りに絶対はない」という上州屋店員さんの言葉が重くのしかかってくる。一匹、どうにか一匹は捕りたいと、ライトアップされた海を大きく見開いた眼で覗き続けていたら、ザパーンと押し寄せてきた白波の中に、ホタルイカっぽい姿が見えた。

あれだ！と思うと同時に波の進行方向と垂直に網を入れて、その水流を受け止める。

上げた網を覗きこむと、青白く光らせた二本の手を振り回しながら、「なんだよーやめろよー」と抗議している（ように見える）ホタルイカが一匹いた。

捕った！俺、ホタルイカ捕った！

明日強力なライトを買って再チャレンジしようかと考えていたところで、ようやくの一匹である。大海鳴動して烏賊一匹。でもいい。成果がゼロとイチとでは、ここまできた意味が全く違うのだ。

手に乗っけたら小さな吸盤が吸いついてくるのがわかった。そして軽く噛まれた。痛いけど嬉しい。

捕まえたホタルイカは、スーパーなどで売っているボイルしたものに比べてだいぶ大きく、胴体はスケスケで美しい。手のひらに乗るサイズでもちゃんとイカの形をしていて、このまま携帯ストラップにしてしまいたい気分。

長い二本の足先が黒くなっていて、ここが青白く光る部分。深海のクラゲのように常に光っている訳ではなく、危険を感じた時などだけ光るようだ。

苦労してどうにか一匹捕れたのはいいけれど、この場所ではこれ以上の成果を期待できない感じなので、ちょっと車でポイントを移動することにした。一匹捕れたらもっとたくさん捕りたくなってしまった。