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土曜ワイド工場
 
サワー日本酒100円の店、探訪

(text by 大塚 幸代

以前、「ハードコア居酒屋撃沈」という記事を書いた。
年配の男性が好むような、カッコいいシブい居酒屋ではなく、ただただ安く、気取りゼロの、庶民の味方…というか普通の庶民はあんまり行かない位、ザックリした居酒屋で泥酔する、という企画だった。ちなみに前回はライターT瀬さんと行ったのだが、彼女は気持ち良く酔い過ぎて、椅子から後ろにひっくり返っていた。あまりの安さに、自分の容量を超えたお酒を摂取してしまったせいだ。怪我が無くて良かった。
この「ハードコア居酒屋」を、もう少し掘り下げてみたいと考えている。何故かというと、インターネットで検索しても、あんまり情報が無いのである。ハードコア居酒屋に行く人は、グルメ日記なんかには、書かないのかもしれない。味や雰囲気を求めている訳じゃないから、仕方ない。
ジャスト酒。
安く、気軽に飲めるお酒。不況に優しい酒。
すごすぎて面白がれる酒。
客の素性をきかず、ほっておいてくれる店。
私の味方の酒。

そんな酒を探していたら、知人のYさんから、「高円寺に、サワー100円の店があるよ、高円寺最安値として結構有名なお店だよ」との情報が。
全体的に安い高円寺で最安値!?
「ええええええ、まじすかどこに!?」
「北口。駅から遠くないよ。100円は19時前の、ハッピーアワーの値段だけどね」
「恐いオッチャンとかばっかりで、女は入りにくかったりしないですか?」
「いやー? 一回しか入ったことないけど、若い子のグループもいたし、年配の人もいたし。安めのチェーン店系の居酒屋と変わらないんじゃないかな」

いざ、「あかちょうちん」へ

店の名前は「あかちょうちん」。場所を教えてもらって、友人Kと行くことにした。
「ここか…」



階段を上がって2階。入ると暗めの店内。壁にはちょうちんと、手書きのメニューでいっぱい。古くて狭いけれど、テーブルも椅子もサラリと清潔な感じがした。

さっそく、100円サワーを注文。
普通の居酒屋の味だ、変わってもいないし、薄くもない。


種類もいろいろある。ちなみに定価は280円だけど、それでも安い。

ボトルも安い。しかしカシスソーダ一升をボトルで入れる人っているのか…? そしてなぜか台湾料理が充実していた。

どんどん頼む。揚げ物もナマ物も頼む。ツマミはだいたい290〜380円。お皿が学食のように合理的な形をしていた(醤油を入れる部分に注目)。

程よく酒がまわるごとに、酔っぱらいトークになっていく私たち。
「つつじの唐突さにはさあ、毎年ビックリするんだよ!」
「何、突然」
「普段さあ、生垣じゃん? なんか、何でもいいから仕切りの代わりに生やされてる木じゃん? それも排気ガスとかばんばんの所にさあ、一切大切にされないでさあ。伸びたらまっ四角に刈り込まれちゃってさあ。そんな、普段かなり適当に扱われてる、どうでもいい木だよ?」
「どうでもいいかどうかは分からないけど、まあ、誰も気にはしないね」
「そう! そんなスルーされてる木が、年に一度、いっせいに咲くじゃない。どんな枯れ枯れスカスカの所でも、根性で咲くじゃない。みっしりみっしり。あれには驚くね!」
「そうかあ?」
「何とも思わない?」
「とくに…。桜はグっと来るけどさあ、つつじはどうでもいいねえ」
「桜! 桜は派手だからなー、出番があいつらの後なのが敗因なのかなあ…」
「何、つつじの気持ちを代弁してんのよ」
「いや、なんかねえ、つつじはイイ子なのよ! いつもヒドい目に逢ってるっていうのに、『私も花なんです、春には咲くんです!』って、けなげにアピッてるのにさあ! いや、何ていうの? 普段、お化粧しない子がドレスアップした時の衝撃に似てるかなあ?『お前、女だったのかよ…』みたいなドキドキ感?」
「何故、男子目線!?」
「そりゃ男子目線にもなるよ!! …Kちゃんは最近、何かないの?」
「最近ねえ。そうねえ、ペロギーっていう、ヨーロッパの餃子の存在を知って…超、調べたりしたね!」
「そ、それきいたことある! 何だっけ、中身」
「おイモとか入ってて、サワークリームで食べるの」
「いいねえー!」
「いいでしょー。作り方、知りたいんだよねえ。あと、ハンガリーのロールキャベツ、お米とチーズが入ってて、超うまいらしい」
「食べ物の話ばっかりだねえ」
「まあ、仕事でヒマな時は、そういうサイトばっか見てるからねえ。しかしこう…こういう居酒屋にいると、気を抜いちゃうせいか、しょもない話しかしないねえ」
「じゃあ、世界平和について語ろうか」
「……えー」
「じゃあ、100年に1度の不況の話とか。ネットリテラシ−の話とか」
「100円のお酒飲んでする話じゃないでしょう」
「100円だからこそするんだよ! 現に、隣の席では、バンドマンが熱く未来を語ってるじゃん」
「語ってるねえ、高円寺だし」
「……すいませーん、日本酒追加で!」
大瓶がどん、と置かれる。2合で200円。


せっかくだから台湾料理も頼む。青菜炒めー! ウマかった!

「マイケル・ジャクソンのライブ、行きたいねえ、ロンドンの!」
「唐突だなあ。でもKちゃん好きだもんね。しかしねえ、ロンドンじゃねえ」
「いや、もうマイケルファンの間では大騒ぎだよ。チケット買えなかったって」
「え、みんなそんなお金あるの?」
「お金っていうか、気合い? もう踊る生マイケルが見れないかもしれないし…」
「……そういえば言わなかったかもしれないけど、私、コドモの頃にマイケルのライブ見てるんだよね、来日公演」
「えええええええどこで!?」
「後楽園球場、ドームじゃなかった頃。BADツアーかな?」
「どうだったの、どうだったの!?」
「いやあ、スタンド席だったし…。むやみやたらとキラキラしてたなあ、舞台が。ドバーンとしてブシューッとしてゴゴゴゴゴゴーって感じ。それしか覚えてない」
「も、もったいない…!! 大塚さんは何か見たいライブ無いの? 行きたいとことか…」
「伊豆の断食道場かな…。この冬で太ったし…」
「あ、それは私も行きたい…、結構値段するんだよね、あそこ」
「断食中、ドクターが付くわけだし、鍼とかイロイロやってもらえるらしいからねえ。それで3-5キロ痩せられるなら、10万くらいは安いのでは…」
「1キロ、3万か…」
「たっかい贅肉だよねえ…」
「とか言いながら食って飲んでるわけだけど…」
「……すいませーん、日本酒追加で!」


名物の水餃子はいかにも「中華!」な風味で本格派。揚げいかボールもあつあつプリプリ。

大瓶がどん、と置かれる。同じく2合で200円。
「お金儲けたい!! お金ってどうやったら儲かるんだっけ?」
「分からん!!」
「私なんか**が**して、アテにしてた**さんが**しちゃって、**さんも***になっちゃって、アレー? みたいな。人生イロイロを噛み締めてるよ!!」
「私も似たようなもんですよ、契約社員だもん!!」
「もう玉の輿には乗れないしさあ、年齢的に。つうかもう、若くキレイな女子を見ると、前は引け目を感じてたんだけど、最近は『カワイイねえ〜、すごい造形だねえ〜』って素直にオッサン目線で見るようになっちゃったよ!!」
「それはアレだ、もう繁殖する気が無いからライバル視しなくなっちゃったんだよ、若女子を!」
「あ、やっぱり? だからさあ、ツツジの花とかにもヒいちゃうんだよ! 美しく咲くモノとか見ると泣けてくるんだよ!!」
「ワケが分かんないよ!!」
「……すいませーん、日本酒追加で!」

エンドレス。

といっても2時間でベロベロ&お腹いっぱいになってしまったので、お茶を飲みに外に出た。お会計は一人2000円。安い…。大満足。
まだ19時。高円寺は明るかった。お酒が良かったのか、バカ話を一生懸命したせいなのか、悪酔いはしなかった(二日酔いも無かった)。
居酒屋の良さと値段は、必ずしも比例しない。

やはり「ハードコア居酒屋」は、もっと発掘すべきだ。行かねば!!!!!


あかちょうちん

東京都杉並区高円寺北3丁目20-24
営業時間
17:00〜翌03:00


 
 
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