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はっけんの水曜日
 
一億円の車に未来を見た!

燃料電池とは何か

燃料電池で動く自動車といっても外観はほとんど一般的な市販車と変わらなかった。このクラスのコンパクトカーならば普通200万円もしないところだろう。ならばどのあたりが影響して1億円という価格になっているのか。

それには従来の車とはまったく違う仕組みをもった駆動系に秘密があった。

外観からはわからないテクノロジーの塊なのです。  

燃料電池車はガソリンエンジンの代わりに、その名の通り燃料電池を搭載している。燃料電池の基本形が左の写真。この薄いシート状のものがセルと呼ばれ、これを直列に幾重にも重ねることで自動車を動かすだけの電力を作り出しているのだ。

セルの構造は水素イオンだけを通す特殊なフィルムを両側から電極で挟み込んだだけのシンプルなもの。電極の表面には触媒としてプラチナが塗られている。こんな小さな部品が実は大きな役割を果たす。

これが燃料電池の心臓部。  

この中にセルが何重にもなって収まっています(内部はメーカー秘)。 ガソリンの代わりに水素が、エンジンの代わりに燃料電池とモーターが配されているわけです。

仕組みはシンプル

燃料電池の仕組みはいたってシンプル。水に電気を与えると酸素と水素とに分解することができるのだが(水の電気分解というやつですね)、燃料電池ではこの逆をしているのだ。つまり酸素と水素が反応して水になる時に発する電力、これを利用しようというわけだ。

これが燃料電池。  

と、説明されるとわかった気になってしまうのだが、実際に酸素も水素も目に見えないのでイメージしづらいだろう。もうちょっと込み入った仕組みを説明したい。

「燃料」として充填した水素ガスを「触媒」と呼ばれる金属に触れさせると水素分子から電子が飛び出す。電子を失った水素はイオンとなり特殊なフィルムを通過して空気中の酸素と反応して水を作る。飛び出した電子はこのフィルムを通らずに迂回路を通って酸素と水素の結合に使われるのだ。

この迂回路を通る電子がすなわち電力であり、これが動力源として使われるというわけ。より一層わかんなくなった人はあまり深く考えない方がいいと思います、僕はそうしています。

水素を注入すると発電してLEDが点灯します。  

燃料電池のしくみはとてもシンプルなのだが、これを実用の場、たとえば車に搭載してモーターを回すまでに高めるにはたいへんな技術が必要だったに違いない。机上の理論だけでは車は走らないのだ。

今回乗せてもらうトヨタ製の燃料電池車は最新型のもので、特徴としては水素のボンベ圧を70MPaまで上げているのだという。これは従来型の約倍の数値で、ボンベに入る水素の量が多いということはすなわち走行距離が稼げるということ。ちなみにこの車だと、ボンベを満タンにすると約830キロ走行することができる。

こちらが最新の燃料電池車。TOYOTA FCHV-adv。推定1億円!  

こうして水素をチャージします。 ガソリンと違って気体なので圧力でチャージするんですね。

では現実問題として気体の水素を車のどこに積むのか。こちらが水素を高圧でチャージするために車に積まれるボンベだ。アルミのボンベにカーボンを巻き付けて強度を高めている。この中に気体の水素を圧縮しながら充填していくのだ。ご存じの通り水素は可燃性のガスなので恐ろしいイメージを持つ人もいると思うが、考えてみるとガソリンだって高い揮発性を持った可燃性の液体だ。危ないといったらどっちも危ない。水素の充填にはガス漏れ検出装置等の安全対策が何重にも施されているとのことだった。

満タンにするのに約5分くらいかかるらしいです。  

燃料電池の制御パネル以外は普通の乗用車とまったく同じです。

それではようやく一億円の車の乗り心地レビューだ。ドアを開け助手席に乗り込み、シートベルトを締めると車は静かに発進した。一億円の車、どんだけすごいのか。

・・が、これが信じられないくらいに普通の車なのだ。

感覚的には普通に市販されている高級車と同じような快適な乗り心地。加速も十分だし取り回しにも重たい感じはまったくない(車重は一般的な車よりもずいぶん重いはずなのに)。だがそれでは納得できないだろう、なんつっても一億なのだぞ。もっとナイトライダーみたいな車を想像していた僕は少し拍子はずれだった。

しかし考えようによってはこれほどまでに普通ということはつまり、燃料電池で走る車がすでにガソリン車レベルにまで達しているということになるのだろう。新しい技術を普通の体感レベルに持って行く技術、ここに一億の秘密があったのだ。

 

 
 
おれ、オンザ一億。

 

燃料電池の未来は明るいのか

しかし今後、実際にガソリン車から燃料電池車へと移ってゆくものなのだろうか。核融合や超伝導ではないが、理論的には可能でも世界中に浸透しきれていない技術はたくさんあるだろう。

将来の展望について伺ったところ、燃料電池は今後確実に内燃機関(ガソリン等を燃やして動力を得るしくみ)に取って代わるものになります、絶対!と言い切られてしまった。このすがすがしいほどの自信は一般人にとっては心強い。信じた。

確かに完成した燃料電池車に乗ってみると、前述の通りその完成度の高さはすでに市販車レベルに達している。それどころか加速のよさ、静かさ、排気のきれいさ等々、多くの部分ですでに市販のガソリン車を遙かに上回っているらしい。ではあとは何が必要なのか。もちろん一億円という価格を下げる必要があるわけだが、それは量産されれば自ずと解決していくだろう。なによりまずインフラの整備、つまりガソリンスタンドと同じ密度で全国に水素スタンドを配置することが課題となってくるのだという。そりゃそうだ、車を手に入れてもスタンドがなければ走らせられないのだから。

この車は水素を液化することで搭載量を稼いでいます。

 

 

夢ではなく現実なのです

燃料電池はこれまでのエネルギーの概念をひっくり返すほどのインパクトを持つ技術なのだという。正直名前は聞いたことあるけど実生活にはあまり関係のない物、くらいの認識で捉えていたのだが、実際に今年4月から家庭用の燃料電池システムが市販されるのだという。価格はなんと100万円くらい。安い!あと数年すると50万くらいになるとの見込みもあるらしい。すべての家庭に燃料電池システムが浸透したら、電気は発電所から買うものではなく、各家庭で作るものになるのだ。おいみんな、時代は変わるぞ!

ここへ来て燃料電池を体験すると今自分が技術革命の入り口にいるのだということを体感することができますよ。

これが家庭用の燃料電池システム。4月までに100万貯めなきゃな。

JHFC水素・燃料電池(自動車)実証プロジェクト

 

 
 
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