駅前一等地のブレないアイツ
京王線の特急以下すべての電車が停車する大きな駅、府中駅前から歩くことわずか4分。早くも巨木が僕の前に姿を現した。
駅前立地。拝みやすい巨木である。周辺の高い建物に押され、少し小さく見えなくもないが、コケを生やしながらのびのびとはえる様子は、気高さすら感じる。
この土地はほぼ、この木のためだけに残っているような区画で、周囲はすべて駅前の住宅になっている。ということは、この木は府中の大地主である。いいなぁ。この土地、譲ってくれないかなぁ。
人間のルールだとそういうことになるが、巨木はただそこに生えているだけである。 駅前だろうと郊外だろうと関係ないのだ。京王線の電車がこの地に走ったのは1916年のことらしい。ということは、多く見積もって100年である。
おそらく、この木は京王線がこの場所に走る前からはえていたのだろう。駅も、住宅も、みんなみんなあとからやってきたのだ。
僕が巨木にあこがれる理由は、『この土地の地価はいくらだから』的な人間の欲深いルールを無視してただ単に咲いているところである。欲の固まりが歩いているような人間界の僕としては、ただそこに生えているだけの巨木のような存在になりたい、と強く思う。
僕が樹木に求めているのは、そういう“不動”な感じである。 |