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ロマンの木曜日
 
廃線たどって碓氷峠を歩いて越える

舞台は国道へと移り、日は暮れる

めがね橋にはたいそう驚かされたが、私の碓氷峠越えはここでは終わらない。さらに進み、軽井沢へと到達せねば帰ることはできんのだ。

よし、それでは次なるトンネル、第六隧道へ――。


これが第六隧道……あれ、入口に……柵? と、通れない……

なんということだ。第六隧道は封鎖されており、それより先に進むことはできなかった。旧線の遊歩道は軽井沢まで続いているのではなく、ここめがね橋で終わっていたのだ。

これで終わり、なのか……?いやいや、ここで終わることなどできやしない。引き返すことなどできるものか。しかしそうなると、一体私はどうすればいいんだ。

「線路を歩けないのなら国道を歩けば良いじゃない」

そうだ、そうだった。この碓氷線はその線路に沿って国道18号線が走っていたのだ。ここからはこの道路を使って軽井沢を目指そう。コースは何にせよ、徒歩で碓氷峠を越えさえすれば良いのだから。


軽井沢へと続く国道18号線 道があるなら歩けばいいのだ

碓氷峠を越えるこの山道は、国道と言ってもそれほど広い道路ではない。しかし車の交通量も多くはないので、歩くに支障は無いが。

ちょうど紅葉の時期ということもあって、道路脇の木々はなかなか良い感じに色付いている。線路跡と違ってコース自体に面白みは無いが、紅葉狩りと思えば、まぁ悪くは無い。

それにこの道路、碓氷線に平行していることもあり、所々でその旧線の橋やトンネルの出入口を見ることもできる。


先ほど通れなかった第六隧道の途中にある横穴 こちらは第五橋梁と第七隧道入口

そんな橋やトンネルを見学しながら歩きつつ、途中、腹が空いたので遅い昼食を取った。時間は午後三時。出発してから三時間が経ったことになる。後一時間も歩けば軽井沢駅に着くだろう。この頃はそう思っていたのだが……


昼食はいつでもどこでもコンビニおにぎり

また、昼食を取っている最中、目の前を爆音を出しながら走る車がいてちょっと怖い思いをした。

そういえば、この峠は走り屋が好きな場所であるとどこかで聞いた気がする。やはり夜になると、豆腐屋とかが走り出したりするのだろうか。危険だ。


時々走り屋さんっぽい車が 爆音を出しながら飛ばしていくのでとても怖い

さらに、もう一つの深刻な問題が今まさに発生しつつあった。日が傾いてきたのだ。

暗くなってきたことに気付いたのは午後4時ぐらい。この時期、5時にもなれば日は落ちてしまうだろう。国道とは言えこんな山の中、もちろん電灯なんかありゃしない。日が落ちたら、辺りは真っ暗になってしまう。走り屋たちもやってくる。

これは大変だ。急いで山を抜けなければ。今朝、寝坊してスタートの時間が大幅に遅れたことが非常に悔やまれる。しかし今更後悔してももう遅い。何とかせねば。急がねば。


太陽はもう、あの山の向こう側
軽井沢まであと9km?!そんなバカな 本気でやばくなってきた

やばい、これはやばい。あと一時間で日が暮れるというのに、標識は軽井沢まで残り9kmだという。山道を時速9kmで歩けと言うのか?そんなの不可能だ。このままでは暗闇の山を歩かねばならなくなってしまう。勘弁してくれ。

しかし時というのは無常なもので、私の事情など一切気にすることなく太陽は沈んでいく。だが泣き言いってもしょうがない。今私にできることは、ただひたすらに歩くのみ。


日が落ちていく中、碓氷鉄道のトンネルも不気味 整備されていた前半のトンネルとは違い、荒れ果てているし

秋の日はつるべ落としとは良く言ったものだ。周囲はあっという間に暗くなって行った。暗い山道は……怖ぇ。

何が怖いって、それは妖怪でも山賊でもなく、行きかう車が怖い。日の落ちた山道を人が歩いているなど、誰が思うだろうか。この幅の狭い国道18号線、いつ車が私を認識しきれず、こちらに突っ込んでくるか分かったものではない。

車が来るたびに脅えつつ、暗い山道をただただ歩く。


あぁ、もうやばいって。絶対やばいって ……と思っていたら、程なくして碓氷峠に着いた
明かりだ、明かりが見えたぞ! そして……軽井沢駅に到着

灯りを見てほっとしたのは久しぶりだ

意外にも、思ったより早く軽井沢駅にたどり着くことができた。先ほどの看板の9kmというのは、多分軽井沢町の役場までの距離を示していたのだと思う。役場は軽井沢駅からさらに3kmほど進んだところにあるそうなので、実際は残り6kmぐらいだったのだろう。

駅の待合室に入った途端、疲れがどっとやってきた。無理も無い。最後の方は日暮れに焦り、ただ闇雲に歩き続けていたのだから。完全に、山で遭難する人の心理状況であった。

それでもまぁ、何とか碓氷峠を越え、軽井沢駅にたどり着くことはできた。軽井沢の町の電灯を見た時は心底ほっとした。灯りを見て安堵するなど物凄い久しぶりのことだ。なんか物凄いプリミティブな感情を覚えた気がする。いやぁ、電気って素晴らしいですね。

夕食はもちろん峠の釜飯。また我が家に釜が増えた

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