渡るよ、綱
準備はできた、それではいざ綱渡らん。
ひらりと軽々と柵に飛び乗り、たたたっと綱を他端まで渡りきる、そんなイメージだったのだが、柵の上に立った途端に足が止まった。
「うわ、なんだこれ!」
綱の上に足を一歩踏み出した瞬間に体中のバランスが「がたがたがた」と音を立てて崩れていくのがわかる。人間ってこんなに不安定なものだったのか。
こうなってくるとそこから次の一歩がどうしても踏み出せない。じっとしているだけで綱に乗せた足が小刻みに震える。
プルプルプルプル・・
靴が悪いのかもしれない、ということで裸足になり足の指で綱を掴むようにすることで少しは安定したようにも思う。しかしこれで解決したわけではなかった。綱に足を置き体重を乗せると、先ほど同様、綱がまるで生きているかのように左右にプルプルと震える。うわわわわ。
らちがあかないのでまずは綱と同じような太さのブランコの柵を渡って感じを掴むことにした。こちらはしっかりと地面に固定されているのでプルプルしない。
柵の上ならばほとんどバランスを失うこともなく渡りきることができた。僕のイメージしていた綱渡りとはこんな感じだ。
後ろで見ていた日傘のおばちゃんが「柵だといいけど綱だと揺れるからね。でもお兄さん若いからすぐできるようになるよ」と励ましてくださった。人の温かさに触れると「こんなんでいいのか!」と今の自分を見つめ直したくなりますよね。
柵の上では震えない。ということはこれはもしかしたらメンタルの問題なのではないか。つまり固定された柵なのだ、と思いこむことでプルプルは止まるのではないか。震えているのは綱ではなく僕自身なのかもしれない。おー、いまおれ、かっこいいこと言った。
柵で得たイメージを頭に残して、再度綱へと戻る。
イメージはつかんだ。さあどうだ。
動画を見てもらいたいが、すごい揺れだ。まったくもって柵の上とは違う。どうやらこれは左右どちらかに崩れた重心を補正するため逆側に足が動く、これを高速に繰り返すというメカニズムのようだ。プルプルメンタル起因説は破棄だ。
渡れない上に粗い綱の上で激しく揺れるため、足の皮がむけるんじゃないかと思うくらい痛い。なんにもいいことがない。
模索します
最終的に綱を渡るためには、目の前に立ちはだかる困難に一つずつ向き合っていくことが必要だ。成功に近道無し。まずは足の痛みから克服していくことにした。
ゴム底の足袋を用意した。これならば足の指で綱を挟み込めるし、ゴムなので滑らない。なにより痛くない。
いきなり僕の服装が替わっているのは日が変わったから。ここんとこ毎日のように公園に綱を張っているのだが、特に進歩がないので同じページで紹介しているのだ。
足袋を履くと足下の感覚が靴の時の倍くらい敏感になった。そのため柵の上に乗っても足の裏で微妙にバランスを保持して立っていられる。この自信に満ちた立ち姿を見て欲しい。これなら綱も渡れそうではないか。
足袋を履いているので綱を踏んでも全く痛くない。この勢いでプルプルも克服されていたらすばらしいのだが、そんな軌跡は起きるのか。
もう思いっきりプルプルしてやった。
足袋を履いているので綱とすれても足の裏は痛くないし、滑らないのですぐには落ちない。だけどプルプルするので次の一歩はやはり出ないのだ。つまりその場でずっとプルプルしているだけ。これでは綱渡りじゃない、綱プルプルだ。
綱プルプル・・