飛行機を眺める人々

ところで、改めてまわりの「飛行機鑑賞家」を見回すと、老若男女さまざまな人がいることに気がつきました。

小さな子供連れの家族、お弁当を持ってきたカップル、一眼レフカメラを首から下げた初老のグループ、そして無線機を片手に航空談義に花が咲くマニアの方々。皆さん滑走路に背を向けて、次に降りてくる飛行機をのんびりと待っています。

実際に来る前までは、航空マニアの方々が何人かいる程度かな、と思っていたのですが、近くにトイレもコンビニもないこの場所が、近所の人々にとっては普通に休日の行き先のひとつ、となっているようです。

超ベテランのおっちゃん

「次は、たぶん緑のラインのエコジェットが来るよ」

次の飛行機を待って突っ立っていた僕の横で、恐らくここにいる中でもっともベテランの鑑賞家と思われるおっちゃんが同じ方角を向きながら言いました。

見慣れない新入りがいたので情報提供してくれたのでしょうか。エコジェットとはJALのキャンペーンで、通常は赤いマークが緑色に塗装されているという、珍しい機体とのこと。おっちゃんも携帯型の無線機を持っていて、そこからは空港に向かっている飛行機と管制塔とのやりとりらしい音声が聞こえてきます。素人の僕には内容は理解できないので、あとどのくらいで来ますか、と聞くと、

「もうすぐ来るよ」

と言い終わるか終わらないかのうちに、遠くに黒い機影が見えました。

しかし飛んできたのは普通の塗装のJAL機。残念ながらエコジェット塗装ではありませんでした。

「あー、じゃ機体変更したんだな」

と、おっちゃんは驚くでもなく少し残念がっていました。この程度の変更は日常茶飯事なのでしょう。

せっかくなので、少しお話を聞いてみることにしました。

「休みの日はいつも来てるよ。家にいてもすることないから。飛行機仲間もいるし」
「今日は日曜日にしては人が少ないほう。いつもはもっといるよ」
「写真も撮るけど、今日は曇りだからいいかなあ」

思った通り、おっちゃんは常連の超ベテラン鑑賞家でした。関空ができる前はボーイング747（ジャンボジェット）もよく飛んできて、あれが通ると風がすごかった、というような話も聞かせてもらいました。いちばん驚いたのは、僕が今日このあと5時の飛行機で羽田に帰る、と言ったところ、

「5時の羽田行きならANAだな。34便かな」

急いでチケットを確認したところ正解。ダイヤ丸暗記とは恐れ入ります。しかも、同年代とお見受けするほかのマニアの方と、

「34便は777-200か？」「777-300じゃない？」

などと機種名まで記憶しているようで、帰りの飛行機に乗ってから確認すると、確かに777-300でした。半端ない経験値。

残念ながら滞在時間1時間ほどで、ここを後にしなくてはならない時間になってしまいました。最後に1機だけ見送って、空港に急ぐことにします。