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フェティッシュの火曜日
 
台車に乗って旅に出よう


乗り物としての台車再評価の波に乗れ

 男性といえば車に限らず乗り物好きであるが、今ひとつピンと来るものがなく寂しい思いをしてきた。そんな自分にも、と考えた結果これかもなというのがあった。台車だ。だけど台車は乗り物なのか?

台車の乗り物としての地位を確立するにはどうしたものかと考え、思い当たったのが旅行だった。車ならドライブ、バイクはツーリング、自転車旅行…乗り物を目当てにした旅行が存在するなら、その乗り物は素敵なものに違いない。台車旅行でその素敵っぷりをねぶりたおして世に広めるのだ。

ということで台車旅行に行ってきたけれど外は豪雨だった。

(text by 大北 栄人 daisya by 石川 大樹



みんな台車に育てられた

台車に乗ったことのない人などいるのだろうか?学校の休み時間に、バイト中にこっそりと、などなど誰だって台車の楽しさを知っている。ベビーカーも言ってみれば台車だし。

ふと気を抜くと、知っていないかもしれない!という思いが湧いてくるがここはぐっと自分を信じてみる。信じることの大切さはお寺の前にある和尚さんポエムに書いてあった。

 

左が筆者。右が台車を押す石川さんで外が豪雨。

今日しかないという日に限って豪雨

さてそんな台車で旅行するのは三浦半島。奇岩の景勝を見てみたい、と思ってのことだったがマグロも有名だし何にせよ見るものは多く申し分ない。

問題は今日の予報が雨だったことと、日々のなまけの結果、今日撮影するしかなかったスケジュール。家を出たときは小雨程度だったものの、三崎口駅に着いてその雨足の強さに驚いた。台車を押してくれる石川さんが迷わず合羽に手を伸ばす。


1、2、の3!で豪雨!

 

水溜りの波うち加減に雨足の強さを感じる

豪雨に飛び出す時のあのふっきれた感

ぬれてもいいや、とパッと雨の中に飛びこんでいくあの爽快感を分かってもらえるだろうか。何か青春の1ページ的な匂いもある、ひと夏の冒険というか、田舎のそろばん塾に通う女子高生が夏休みにひょんなことからヌーディストビーチにデビューするときのそれと似ていると思う。(そんな事例はないかもしれないが)

雨の中、台車は重々しくもやがて軽快に滑り出す。ゴロゴロとした感触が足のうらから伝わってくる。道の小さな凹凸にも反応する不安定な重心。やっぱりこれはおもしろいぞ、とすぐに分かった。ずぶぬれになるぞ、というのもすぐに分かった。


まるでディズニーランド!とはしゃいでいたが
写真で見るとそういうものから余りにも距離がある

右手は一面畑の一本道。旅と台車が出会った瞬間である(豪雨も!)

 

文句も言わずにただ押してくれる石川さんに感謝を
さあ今日のハイライト、下り坂にやってきた

意外に押すほうも楽らしいぞ

「普通に歩くつかれを100としたら台車を押すときのつかれは?」と石川さんに聞いてみたところ答えは「地面がまっ平らなら120。」だった。意外に疲れないようだ。旅行後にためしに代わってもらったところ、なるほどこれは楽だ。一度スピードがついてしまえばその後そんなに力も要らない。

二人歩くと一人100ずつ疲れたとして200、台車だと一人は上に乗っているので二人分だと台車のほうが得だ。今はずぶぬれだがどんどん得をしているのだ。寒さやきもちわるさに気をとられて気づけなかったのが残念だ。

 

乗る方の楽しさはもちろん

スピードが優雅。スローフード的な贅沢さというか、これは多分貴族の速度だ。「F1みたいなものは貧乏人がやることであって、本当の貴族というのはみんな台車だ。」とイギリスあたりで言われてたらいいなと思う。

そして荷物感。自分が自分でなく荷物であるという感覚。アイアム荷物。アイデンティティの崩壊も意図的であればエンターテインメントになりうる、仮面をかぶって踊りまくる人みたいなことだ。踊りとは逆の静物的な方向だが、日常からの逸脱に変わりはない。


決定的瞬間。このあとすっころぶ(マウスオンでこんな感じでした画像)

雨が坂道を覆い、もはや濁流となっていてそこにすっころんだ

結局歩いて下った写真のさびしさよ
通りがかったお寺で一休み(昔話っぽい)

 

うっかり関東ローム層とおともだちになる

みるみるテンションが下がる

人はすっころぶと、はー。とため息もつくし、寒いうえにどろどろなのはやっぱりきつい。ころんだ際に作った肘と手のひらに傷が気になる。

しかも足には靴ずれが4つあった。前日に革のサンダルを試し履きして10分で作ったものだ。どろどろの水に浸かった靴の中で傷口が化膿してゆくというイメージが頭から離れない。そのとき動物園でパンダの赤ちゃんが生まれた、とかそんな明るい話題がほしかった。


雨足が弱まった今だ!とばかりにかっこいい乗り方を開発。結果は大成功だったがこの残念さはなんだろう。

 

雨でぐっしゃぐしゃの地図。いやゴミだったのかもしれない。

体温とともにテンションも低下、のちバスに

一度冷めたテンションと体はなかなか元に戻らないが、雨が小雨になってきた隙を見計らってかっこいい乗り方を開発していた。寒さをかっこよさでなんとか解決しようとしていたのだが、それほど効果的でもなかった。

ところで困ったことに駅前でもらった散策パンフレットが雨でつぶれて読めなくなってしまった。色々と悩んだ結果、バスという台車に乗ることにした。


バスは台車の中の台車だと思えば乗ってもいいルールを追加
乗車時は台車への忠誠心を、という話だったが、ただただバスの便利さと温かさをかみしめるだけだった

その後、無理はしないという教訓を得て迷わず平坦な右の道を

台車旅行、やってきました三崎港

 

駐車場にマイカーを停めると一瞬でお店の備品と化した

三浦半島濃度を一気に高めておわらせます

坂が多いこの辺りならではの下り坂すってんころりん事件のほかには三浦半島っぽいことをしてこなかったのでマグロを食べに行った。

普段は取材中にアルコールを入れないけれど、もう終わりにしたかったのでビールを。

飲んで終わる。よくないかもしれないが、現実の色々な問題は飲んでなんとなく解決した気になるし、それでいいと思うしそんなことばかりだと思う。今、一般論にすりかえようとしているが、要は雨でめげたのだ。


噂に聞く三崎のマグロはうまい。泣いて喜ぶ石川さん。
濡れた下着を空調が冷やし、冷えたビールを。寒いとうまいはうまいの勝ち。

台車のことはおいといて三浦半島に乾杯といこうじゃないか
(マウスオンでまたこれを着るのか、という忘れたい現実)

 

三浦の懐の広さに乾杯を

台車で旅行に行く、と言っておきながら、台車部分と旅行部分がうまくミックスされていない気もするがしかたない。ずぶぬれでやる気は出ないのに魚がうまいのだ。それは台車がおろそかになってしまうのも道理だろう。

それほどまでにマグロがうまい。次回こそは台車を、と思ったが多分無理だ。なんとイカもうまいらしいのだ。


「イカはうまい」とな。ああ、こりゃもういつまでたっても台車そっちのけだ。

旅先で愛車(ダスキンでレンタカー)と

結論としてはもちろん台車はいい。楽しいし楽だ。だが乗り物としての地位を確立するには目の前にマグロとイカという大きな壁が立ちはだかっている。なんだか今日は全てお寿司屋さんの中に収まりそうな話だ。

ところで個人的な話で恐縮だが私たちが記事を書くとよくずぶ濡れになっていて、先週の石川さんの記事でもびしょびしょの石川さんの勇姿を拝めたりする。熱心に読んでくださってる方は今週もかと思われたかもしれないが、私たちも残念なのである。

濡れればいいと思ってんじゃないの?というご批判もあるかと思う。何の申し訳もできない。ただ私たちがずぶ濡れになっている陰で、何千、何万というカエルたちが歓喜の歌声を上げていることを忘れないでほしい。ゲーコゲコ。


 
 
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