デイリーポータルZロゴ
このサイトについて


ひらめきの月曜日
 
駄菓子の提案を真に受ける
 


 子供の頃よく買った駄菓子。安いものだと10円くらいから買えて、少ないこづかいでも買い物を楽しむことができた。小学生の自分にとって、すごく魅力的なものだった。

 大手メーカーの洗練されたお菓子にはない魅力があるのも駄菓子の特徴だろう。そのパッケージには子供向けに何らかのことが訴求されていて、それを読むのも楽しかった。

 そして気になったのは、どうにも不思議な提案がしばしばなされていることだった。

 お菓子を食べながら「なんだかよくわからんな」と思っていたあの頃。今回は、そうした駄菓子の提案を真に受けてみました。

小野法師丸



●大人をも魅了する謎の提案たち

  子供の頃にはどこの小学校の近くにも一軒はあった駄菓子屋さん。今も生き残っているそうした店はあるだろうが、最近は大人をも客として視野に入れた店もちらほら見かけることがある。


高密度が魅力的

 今回訪れたのもショッピングモールの中にあった駄菓子の専門店。すごい密度で駄菓子類が並べられているのは、なんだか迫力を感じる。

 たくさんの大人や子供の客でにぎわっていてかなりの人気だったこの店。数ある中から、気になる駄菓子をピックアップして紹介してみよう。

 まずは前々から気になっていたこれだ。


今でも現役なのになぜか懐かしい、ふ菓子

 ふ菓子である。パッケージの字体にも味があるし、あまり期待されていないだろうにも関わらず「カルシウム入り」と書いてあるのもいい感じだ。

 ただ、一番気になるのは「勉強に スポーツに」との文字。一回何気なく読んだ後、よくよく考えて「ん?」となる。

 「勉強に」の部分はまあいいのかもしれない。糖分を摂ることで頭の回転がよくなることは考えられる。けれども、「スポーツに」というのはどうなのだろう。

 こうした疑問に思える提案を実践してみようというのが今回の試みだ。さあ、やってみよう。


とりあえず腹筋50回
予想通りのモソモソ感

 外は雨が降っていて仕方なく家の中でスポーツ。腹筋を50回ほどすると、息があがって汗ばんでくる。よし、ここでふ菓子に手を伸ばしてみる。

 …うーん、モッソモソだ。ただでさえモソモソしているふ菓子のモソモソ度がアップ。

 スポーツで乾いた口の中にわずかに残っていた水分を、全て奪い取っていくふ菓子。スポーツに合うかどうかはともかく、水分の大切さというものを改めて実感した。

 さらに、同じふ菓子でも全く別の提案をしてくるものもあった。


いかにも駄菓子といった感じのふ菓子なのだが…
なんで?

 別の会社が作っているふ菓子。「FUGASHI」とあるのも気になるし、「お子様に必要なタンパク質はふがしから」とあるのも気になるが、それよりも疑問符が付くのは「Uターン禁止」のマークが描かれていることだ。

 子供に交通標識を知って欲しいという願いからだろうか。ただそれは、売り場にあった全てのパッケージに同じ「Uターン禁止」のマークがついていたことからすると違う気がする。

 「過去を気にすることなく前に突き進め」というメッセージなのだろうか。

 そういう抽象的なことを、ふ菓子を通して伝えたいのかもしれない。目に見える行動としてすぐに実行できるわけではないが、心に留め置きたいと思う。

●勝手に語りかけてくる太郎シリーズ

 ここまで紹介してきたのは短い言葉で訴えてくるものだったが、駄菓子の中にはもっと饒舌に自分を主張したり、何らかの提案をもちかけるものもある。昔からある「キャベツ太郎」もそうだ。


謎多きスナック
一人称で語りかけてくる

 まず、「キャベツ太郎」という名前からしてわからない。パッケージのイラストはカエルの警官。原材料にキャベツが使われているわけでもなく、どうにかしてキャベツの要素を見つけ出そうとする努力は無に帰す。

 裏面では「もりもり食べてもりもり勉強しよう」との提案が。そうか、勉強か。

 続く部分の「通信簿に関係なくおいしいヨ!!」という部分に、はじめから期待してない姿勢も感じ取れるのが気になるが、とにかくやってみよう。


集中できない

 キャベツ太郎を食べながら勉強してみる。うん、キャベツ太郎が口の中でサクサクする音が邪魔になって、勉強しようとしていることがまるで頭に入らない。

 姉妹品と思われる「玉葱さん太郎」でも、勉強のことに触れている。


こちらでも勉強を訴えてくるのだが
すでに実績として描かれている

 キャベツさん太郎の文と読み比べると違いがよくわかる。玉葱さん太郎では、すでにもりもり食べてもりもり勉強したところ、先生から「大変よくなりましたネ」とほめられているのだ。

 成功体験として描かれている。それなら確かに説得力がある。

 効能を過去の事実として挙げている玉葱さん太郎。よく読むとわかるのだが、ここで言われている提案は「妹にもおしえてあげてネ」なのである。


妹はいません

 惜しい、実に惜しい。私に妹がいたならば、玉葱さん太郎の勉強に対する効果を教えにいったのだが、残念ながら妹はいない。一人でもりもりと食べることにする。

●言われて見ればカード食品

 駄菓子は一応子供向けのお菓子として企画されているのだろうが、中には非常におつまみ的なものもある。魚介類をのしてあるタイプはそうしたものの代表例だ。


よく見るといろいろなデザイン意匠が詰め込まれている
高いテンションでの訴え

 のし梅さん太郎では自らを「カード食品」として売り込んできている。そういえばずいぶん前に、未来の食べ物的な扱いでカード食品が話題になったことがあったと思う。あの頃からすれば現在は未来にあたるわけだと思うが、カード食品についてはあまりぱっとしないというのが現状だと思う。

 そんな時間のねじれを感じながらも、トータルのテンションの高さは強く感じられる。提案していることは「ノートやポケットにしのばせて場所を選ばずに食べてみよう」だ。


頭が悪く見えるカード食品

 実際にやってみた。ポケットに、のし梅さん太郎を忍ばせる。ノートにものし梅さん太郎を挟んでみた。

 だめだ、どうしても頭が悪い感じがしてしまう。カード食品という言葉の響きと、その未来感と、実際にやっていることと、その全てがうまくマッチせず、はっきり言ってバカっぽい。

 さて、続いての駄菓子もこのジャンルに入ることになるだろうか、「のしいか太郎」だ。


楽しげ感あふれる「のしいか太郎」
殊勝な感じ

 「のし梅さん太郎」の勢いと比べると、「のしいか太郎」に書かれている文は実に腰が低い。子供に対しての言葉遣いではない。何があったのだろうか。

 そうした温度差も謎だが、提案していることは「丸めて食べればおいしく食べられます」ということ。


提案とは別のことを発見

 「よくのしすぎの為にところどころ薄いところや穴があいてある所がありますが…」に続くその文は、解決策になっているかどうかはよくわからない。その妥当性を検証するのが今回の目的ではない。

 丸めて食べて気づいたことがある。あれだけ広大だったのしいかは、丸めてしまうとコンパクトになり、あっという間に食べ終わってしまうということだ。こちらの副作用には気をつけた方がいいと思う。

●カテゴライズを拒否する駄菓子たち

 ここまでのものもそれぞれ独自の訴えをもっていた駄菓子だったが、さらにアグレッシブな提案をしてくるものがあった。「タラタラしてんじゃね〜よ」だ。


ネーミングセンスがロック
理性を超えた訴え

 タラなどをのしたものであることから、こうしたネーミングになったのだろうか。パンクな人物が描かれているわけだが、裏面の名称欄には「魚肉ねり製品加工品」という現実が記されていて、そのギャップも狙いなのかもしれない。

 提案していることは、「ひとくちつまんで『タラタラしてんじゃねーよ!』と叫びましょう」とのこと。


「タラタラしてるんじゃねーよ!」

 実際にやってみた。ひとくちつまんで、誰に言うでもなく叫ぶ「タラタラしてるんじゃねーよ!」。世の中全体に曖昧な反発をもった人みたいだ。

 かなりシュールな提案をしてきた駄菓子だったが、逆に当たり前のことを訴えてくるものもある。


「とり味」というところがトリッキー
わかってるって

 パッケージのイラストはどう見てもボクサーなのだが、お菓子の名前は「ラーメン屋さん太郎」。まあここまでくると、そういう不整合は気にならなくなってくるものだ。

 提案はこれまでのように文章ではなく、「召し上がり方」としてイラストで描かれている。そうだよね、そうやって食べればいいんだよね。


まずはこうして…
そして食べる

 これは簡単だと思ってやったみたのだが、あとから写真を見たところ、パッケージのイラストにあるような笑顔が出せていなかった。垣間見えるのは30代中盤ならではの疲れ。意外なところで自分を発見させられた。

 また別のお菓子では、道徳的なことを訴えてくるものも見られた。


いろんな味がある「よい子わるい子」キャンディ
これはきつい

 「よい子わるい子」というキャンディには、イラストとともに子供に向けてこうあってほしいという説話的な言葉が記されている。例えばコーラ味の赤いパッケージには「夢はぜったいあきらめない」とある。


夢…

 おっさんにこの言葉はきつい。「何が自分の夢なのか」みたいなことから考え始めると、おかしくなってくる。

 世の中が夢を絶対にあきらめない人ばかりだったら、社会は成り立たない。夢をあきらめることで得るものもあるという現実から目をそらし、前向きなことだけを言うのはフェアじゃない。

 …何を言ってるんだ。浮かび上がってきたのは、言い訳めいたことばかり考えている自分の姿だ。

 夢のことは忘れて、他のを見てみよう。サイダー味の青いパッケージには「ごめんねって素直に言おう」とある。


こういうのは得意

 オーケー、こういうのはできる。超素直に言える。

 さらには「ここは謝っておいた方が得策だな」とか、「悪いのは自分じゃないけど、ごめんって言っちゃった方が楽だな」などと、巧みな判断をした上で「ごめんね」と言うこともできる。

 夢のことを考えて失った自信を、サイダー味のキャンディをなめて回復だ。

キツネなし!

どれもとても自由な空気を感じた駄菓子たち。上の写真の「ど〜ん太郎」は名前もかなり自由だが、「キツネなし!」という言葉も自由奔放。それでいて事実だからすごい。

 彼らの言葉に耳を傾け、できるだけ実践してみた今回の試み。謎めいたものも多かったが、彼らはそのあり方を通して「君はいつも君らしくいたまえ」と言っているようにも感じた。

 もしかしたらそれは、幻聴かもしれない。その指摘に反論する術はない。

 子供には聞こえない自由の叫び。スポーツのあとにふ菓子を食べたり、意味なく「タラタラしてるんじゃねーよ!」と叫んだりして自分の心に刻まれたのは、そんな言葉だったのだと思う。


 
 
関連記事
音の出る駄菓子で演奏はできるか
中国の駄菓子にトライ!
メーカーが提案する気になるレシピを作る

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲トップに戻る バックナンバーいちらんへ
個人情報保護ポリシー
© DailyPortalZ Inc. All Rights Reserved.