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ひらめきの月曜日
 
江戸時代、蕎麦は蒸していた


これは「ざる」でいいんでしょうか。

未だに蕎麦の「ざる」と「せいろ」の違いがよく分からない。海苔の有無・つゆの違い等々、店によって定義がいろいろあるようだし、結局いつも「どっちでもいいや」で済ませてしまう。つまり、深く追求する気がない。

が、この「せいろ」という名称、蒸籠で蕎麦を蒸していた頃の名残だというではないか。

今でこそ、冷たい水でキュッと麺を締め、ツルツルッと食べている蕎麦だが、過去には蒸したて熱々を食べていた時代もあったのだ。

蒸した蕎麦。…想像もつかない食べ物だ。それは一体、どんな代物だったんだろう。

高瀬 克子



まずは十割そばを作る

これから作る蒸し蕎麦だが、「当時はつなぎとして小麦粉を使わなかったため、茹でると切れやすく、蒸す方法が生まれた」という説もある。

ならば、やっぱりここは十割蕎麦を打つことから始めなければならないようだ。


蕎麦粉に水を加えて混ぜます。
なんでこんなにボソボソなんだろう。
それでも練りに練って伸ばしてみたところ、
まるで、北欧のどこかの国みたいな形になった。

蕎麦打ち名人に「この馬鹿者が!」と一喝されそうな物が出来た。いや、名人じゃなくても「それってどうなのよ」くらい言うだろう。さすがの私も「なんだこれは」と思いました。

うん。これは明らかに水分が足りてないな。


というわけで、水を足して練り直しました。

一気に蕎麦っぽくなった。と同時に、どこか石っぽくもある。となると、どうしても寄り道して遊びたくなるのが人の常。


犬吠埼から出発した「ワン」
東尋坊からは「クリスチーヌ」
宗谷岬からスタートの「ビジネス」
沖縄から海を渡った「マブイくん」

えー、ちなみにこれらは、当サイトで現在行われている「持ってけ!石リレー」で活躍中の石の形状及び名称であります。みんな無事に東京まで来て欲しいですね。

さ、遊びはおしまいだ。蕎麦作りを再開しよう。


今度はちゃんと伸びます。
粉を振りながら薄く広げて、
折ってから太めに切ってみました。
が、折り目で切れてしまう。折ったのが失敗だったか。

最初から細くて長い蕎麦が作れるとは思ってなかったので、短かろうが太かろうが「ま、こんなもんだろ」くらいの感想しかない。

そもそも「十割蕎麦の作り方」がテーマじゃないんだ。むしろ問題はここから、なのだ。


とはいえ、まずは普通に茹でてみました。
ああ、これは蕎麦です。

なめらかさはないしブチブチと切れたりもするが、こういう蕎麦もわりと好きだ。なにしろ蕎麦の味がすごく濃い。いかにも十割といった一品である。

さてと。普通に茹でれば普通に食べられる蕎麦なことは分かった。じゃあ、いよいよ蒸してみますか。

 

蒸籠を作る

「蒸籠で蒸す」といったところで、我が家には蒸し器がない。蒸籠もない。

でも、ないなら作ればいいだけの話だ。


海苔巻きに使う巻き簾をハサミで切断。
鍋に入る大きさにするのがポイント。
皿に乗せたら、
さらにその上に、蕎麦を乗せます。

とんでもなく間違ったことをしている気になるのだが、そのたびに「これは江戸時代の一時期、実際に食べられていた方法なんだ」と懸命に自らに言い聞かせる。

うん。間違っちゃいない。…たぶん。


鍋に皿を入れ、その上に乗せたら簡易蒸し器の出来上がり

このままフタをして、じっと待つ。さっきは2分で茹で上がった蕎麦であるが、さすがにこの場合2分では無理だろう。ならば一体何分が正解なのか。何度も中を確かめてみるのだが、いっこうに蒸し上がる気配がない。

結局、2時間を超えたところで火を止めることにした。「これ以上蒸しても変化は見込めない」と判断したのだ。

だって、これですよ? どんなに時間が経っても、この姿のままなんですよ?


これで食べちゃってもいいの?
っていうか、食べられるの?

分からない。果たして、これが江戸の昔に食されていたという「蒸しせいろ」の正しい姿なんだろうか。色が妙に黒いのも気になる。

とりあえず、2時間もかけたんだから火は通っているだろう。食べてお腹が痛くなるような物ではないと思う。というか、思いたい。


つゆに浸して食べてみた。

…すごい。すごいですよ。このおいしくなさは特筆ものですよ。

とにかくボソボソなのだ。そして蕎麦が口に残る。いつまで経っても残る。これ以上ないってほど柔らかいのに、それがなめらかさとは無縁なのもすごい。全体的に粉っぽいのも駄目さに拍車をかけているし、エグみもある。

うーん、マズイ! 素晴らしくマズイ!


しょうがないので全部をつゆに投入。
つゆを吸っても、ボソボソなのは変わらず。

やることなすこと初めて尽くしだったせいもあろうが、それを差っ引いたところで、たぶん現在のツルツルした蕎麦に慣れた口には「うーん」な代物だったのだろう。

この食べ方がすっかり廃れてしまったのが、よく理解できる味であった。

興味が湧いてきた

あんまりな結果に納得できず、ちょっと調べてみたところ、なんと今でも蒸した「せいろ」を食べさせる店が全国に何軒か存在するらしいことが分かった。東京では新橋に一軒あるという。これは是非とも行かなくては。

上手な人が作った蒸し蕎麦は、きちんとした味がするのだろう。江戸時代の人が、ここまでマズイ物を食べていたとはどうしても思えない。

皆さんも、蒸し蕎麦に興味が湧いたらお店に行くことをオススメします。手作りはくれぐれも止めておいた方がいいです。

レンジでチンしても、ボソボソしたままでした。

 
 
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