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ロマンの木曜日
 
扉の閉まる音がかっこいい

今日の主役はこの部分です

 たとえば「巨大ロボットの合体音」から「シャーペンをノックする音」まで、精巧な仕組みの金属部品が動作する音には堪らない魅力があると思います。

その中でもっとも身近にあって、いろんな種類の音が聴けるのは「扉が閉まるときの音」ではないでしょうか。

今回は、僕の職場の扉の音を採集して聴き比べてみることにしました。

萩原 雅紀



採集のルール

今回、聴き比べる閉扉音(へいひおん、って勝手に名付けたつもりでいたら実際にある言葉のようです)を採集するにあたっては、各扉の公正を期すため以下のような厳密なルールを定めました。

  • 閉まった状態から扉を開け、閉まりきるまでの音を録音。
  • 開扉は右手で行ない、閉扉時は手を離して自然に閉まるのを待つ。
  • マイクは左手に持ち、扉との距離を約1mに保つ。

    まあ別にどうでもいいことですが、何十枚もの扉の開け閉めを録音するなんて、こうでもして自分の緊張感を高めないとグダグダになるのは目に見えています。もっとも、マイクはiPodに取りつけられた簡易的なものなので、ハッキリ言って音質は期待できませんが…。

    それでは、職場の建物のエントランスから入って自分の席につくまでの道のりをたどりながら、間にある扉の音を順に聴いてみましょう。


  • エントランス→自分の席まで

    駅から伸びる地下道を進むと、職場の建物のB1Fにあるエントランスにたどりつきます。


    文章だけだと分からないのでマップを作ってみた

    ここはストッパーのないガラス張りの扉なので音が出ません。傍に立つ警備員さんに職員カードを見せつつ、受付のお姉さんに軽く会釈しながら廊下を進みます。

    真っすぐの廊下を突き当たりまでずんずん進むと、右側にエレベーターホール、そしてその先に扉が現れます。エレベーターは無視してこの扉に入るわけですが、便宜上「扉A」とします。


    エレベーターホールの先が第一の扉

    では、扉Aの閉まる音を聴いてみましょう。


    扉A(反対側から撮影しています)

    ラッチ(ノブに連動して出入りする三角形の留め金)の音よりも、扉体がストッパーに当たる音の方が大きく、さらに一度バウンドするなど、かなり荒削りな印象。クローザー(ドアの上に取りつけられている、閉まる速度を調節する装置)がきちんと働いていないのかも知れません。

    精巧なメカニカル感を価値観の第一とする今回の聴き比べでは、残念ながらよい評価というわけにはいかないでしょう。

    扉Aを抜けると、すぐに扉Bがあります。なぜこんなに扉が連続しているのか分かりませんが、僕の職場にはこういう場所がいくつもあります。

    扉Bの先は職員専用のエレベーターホールがあるのですが、僕の部屋は違う棟にあるのでそこも抜け、カードキーを使わないと開かない扉Cを通って隣の廊下に出ます。


    扉が連続する職員専用エレベーター付近

    では、扉Bと扉Cの閉まる音を続けてどうぞ。


    扉Aとそっくりだけど微妙に違う扉B 扉Bとほとんど同じだけどカードキーが必要な扉C

    扉Bは、開扉したときの軋み音が何とも言えない味を出していますが、扉Aと同様にクローザーの機能が弱っている様子。閉まる勢いが強すぎ、ラッチ音よりもストッパー部分のバウンド音を響かせてしまっています。

    扉Cは非常に強いインパクトの音。全体的に乾いた音で残響も少なく、固まり感のあるサウンドです。しかしこちらもラッチ音は控えめで、メカニカルとは程遠い状況。ただ、最後にオートロックの作動を示す「ピッ」という音が鳴って、扉の向こう側はセキュリティレベルが1段階上なんだ、という緊張感を演出します。

    出勤して最初に通り抜けるB1Fの扉はみな少し物足りない感じですが、自分の席までにはまだまだ通らなければならない扉があるので、後半戦に期待しましょう。


    B1F後半戦

    セキュリティレベルの高い廊下に出ますが、そこを斜めに横断する形ですぐ向かいにある扉Dに入ります。すると、両側にいくつか部屋のある廊下が始まります。しかし部屋には目もくれずに直進。途中、カードキーでさらにセキュリティレベルを上げる扉Eを抜けると、この建物でいちばん東のエレベーターと階段のあるホールにたどり着きます。そして、その階段室の入口には扉Fが設置されています。


    かなり謎な構造の東エレベーターへ続く通路

    それでは、東エレベーターへの通路に入る場所にある扉Dの音から聞いてみましょう。


    廊下は目立つので内側から撮影した扉D

    ちょうどアタックのところでマイクの入力限界値を越えてしまい、音が潰れてしまっていますが、これはかなり気持ちいい音ではないでしょうか。ここは建物の中でも出入口からかなり遠い場所のため、気圧の影響を受けていつもスキマ風が強いのですが、それが効果的な演出をしているような気がします。

    続いては、この出勤経路の中でもその存在がいちばん謎な扉Eと、その先の階段の入口に設置されている扉F。僕のオフィスは5Fにあるため、いつもはここからエレベーターに乗ってしまうので階段はほとんど使わないのですが、扉Fはいちおう採集してみました。

    扉Eは、ここで急に幅が小さくなり、例えば台車で荷物を運んでいるときなどは非常に苦労します。また、理由は分かりませんが一方通行で、東エレベーター側にはカードキーを通す装置がないため、向こう側から戻ってくることはできません。建物内の移動の際、非常に頭を使う経路です。


    この経路でいちばん謎な存在の扉E 右が上り階段の扉F、左の下り階段は行ったことがない

    改めて扉Eの音を聴いて、僕は感動しました。メカニカル感はそれほどでもないのですが、閉まった瞬間の音の潰れ方とその後のリバーブが、もうこれは宇宙空間で大砲をぶっ放したかのような大迫力サウンド。ものすごい勢いで吹き荒れるスキマ風の音も、宇宙っぽさを一層引き立てています。

    ちなみに最初の音はカードキーを通す様子。しかし音だけ聴くと、もうこれは最終兵器を起動させるトリガーの音という気さえしてきます。

    続いての扉Fは、扉Eで高まった興奮を抑えるのに最適な、いたって普通の音。強すぎず、メカニカル過ぎず、大人しくパタンと閉まるその音はまるで、落ち着いて仕事に入りなさいよ、と戒めてくれているかのよう。

    これからは毎日エレベーターに乗る前に、この扉Fの音を聴いて気持ちを鎮めたいと思います。

    ここからエレベーターに乗って5Fへ向かうと、いよいよ僕のオフィスへ入る最後の扉Gが出現します。


    徘徊する上司の目を盗んでオフィスに逃げ込め!

    最近カードキーがついた扉G

    落ち着いた音ですが、閉まりきる瞬間によく耳を立てると、ラッチの作動音をかなり鮮明に聴き取ることができます。ラッチの作動風景が頭の中に浮かび上がる人もいるでしょう。派手さはないものの味わい深い閉扉音と言っていいかも知れません。

    さて、計7箇所の扉を抜けてようやく自分の席についたわけですが、この建物にはかっこいい音を出す扉がまだまだあります。というわけで、次は昼食のときに外に出る経路の扉を検証してみることにします。似たような扉の写真ばかりでもうワケ分からないと思いますが、もう少しだけお付き合いください。

    出勤時はB1Fから来ましたが、お昼休みは1Fから外に出ます。


     

     
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