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土曜ワイド工場
 
聞き役の話しを聞く

居酒屋のおかみさんなんてどうだろう

他にどんな職業があるだろうと部屋に篭って考えていても出てはこないので、後日浅草をうろついてみることにしました。
日本人も外国人観光客も多く、昔からこの土地に住んでいる人もいるというまさに人種のサラダボウルのような場所です。
ここだったらインスピレーションが沸く気がしました。

そしてふと、あそこがいいんじゃないかと思い立ち、早速向かうことに。


ウインズの向かいにある初音小路

浅草には「ウインズ」という場外馬券売り場があり、土日となるとそこには競馬に人生をかけた人たちでごった返しています。

そしてウインズの周辺には軒下にテーブルを出した大衆酒場が数多くあり、すべて失った人や大儲けした人などがあれこれ文句を言いつつ飲みに来る場所となっています。

この場所で飲み屋をやっているおかみさんなら、おじさんたちの愚痴を聞く側に回っているに違いない。


焼き鳥の煙で霞がかった道

競馬もよくわからない上におじさんだらけなので入るのにためらいましたが、おばちゃんの「どうぞー」という呼び込みに誘われて一軒のお店にお邪魔しました。

優しそうで気風のいいいかにも江戸っ子なおばちゃん。この人なら色々と聞かせてくれるのではないだろうか。

しかし淡い期待はあっという間に吹き飛んでしまいました。

 

ウーロンハイを手に説教を始めるマスコさん
カウンターから外にでてまた説教
入る余地も無くあっという間に無くなるモツ煮

マスコさんVSおじさんの戦い勃発

ホッピーとモツ煮を注文したところで早速お話しを…と思っていたところ、私の隣に1人のおじさんが座りました。

どうやら常連さんらしく「マスコちゃんの顔見にきたんだよ〜」とすでにほろ酔い。
そして次の瞬間、マスコさんと呼ばれたおばちゃんの口から凄まじい罵声が飛び出しました。

「都合のいいときばっかり顔見せに来たなんていいやがって。私はお前の面なんか見たかないんだよ!」

乱闘でも始まるんじゃないかという勢いでしたが、これがいつものやり取りらしく、おじさんは「そんな冷たい事いうなよ〜」と赤ら顔で受け流しています。

そしてマスコさんの説教はまだまだ続きました。

酒はちょっと飲んできたけどご飯を食べていないというそのおじさんが握り飯でも握ってくれと頼むとマスコさんは
「お前に食わせてやる飯なんかないよ!」と、一蹴。

これは物凄いところに来てしまったなぁと恐縮していると、そのおじさんは私に話を振ってきました。
腕につけている怪しいブレスレットを見せてくれて「これシンガポールで買った魔よけのお守り。これつけてれば悪い女は寄ってこないんだよ」と自慢していました。
思わず笑ってしまうとすかさずマスコさんが
「お前なんかそもそも女なんか寄ってこないんだからそんなもん必要ないだろ!」と、また一喝。

まるで漫才を見ているかのようで、周りのお客さんも一緒になって笑っていました。

さらにおじさんはよくお財布を失くしてしまうから財布に紐をつけてズボンにくっつけてある、これでもう失くさないぞと自慢していたら、ついにマスコさんがカウンターから出てきました。

「そんなことしたっていっつも結局失くしてるじゃないか。私が預かってるお前のカードで何回金おろしてやったと思ってるんだよ!」と、おじさんから財布をふんだくり、中身がちゃんとあるか確認していました。
そしてきっちりその日の飲み代を徴収していました。

怒られつつも腹が減ったとせがむおじさんに対して、マスコさんはとてもおいしそうな卵焼きを焼いてあげていました。
ああ、こういうのなんだかいいなぁ、暖かいなぁとしみじみしていたのですが、肝心の話しが聞けるような状況ではありませんでした。

 

本来の目的はどうした

ホッピーもモツ煮も無くなり、おじさんとのやり取りの勢いに押されっぱなしで入る余地もなかったため、お店を後にすることにしました。

帰りしなにマスコさんは「この辺は女の子1人で歩くと危ないから、気をつけて帰るんだよ」と声をかけてくれたのがとても嬉しかったです。
そしてずっと説教をされてたおじさんからは「競馬にははまっちゃダメだよ。人生棒に振るよ」と声をかけられました。

物凄く重く受け止めてその場を後にしました。

圧倒されっぱなしで本来の目的だったマスコさんの話しは聞けずじまいに。
かといってこのまま帰るのも…と思い、再び話しを聞く側の職業っぽい人はいないだろうかと当ても無く浅草の街をうろうろしていました。


 

 
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