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土曜ワイド工場
 
人が埋もれてる(ように見せる)
埋まってるように見せたい。


道路に軍手がよく落ちてるように、雪の上に手袋が落ちていることもたまにある。

普段はフニャッとしててペッタンコなので単に「ああ手袋が落ちてるな」としか思うことはない。でも逆に、中に紙を詰めて「フニャッとペッタンコ」の要素を無くしさらに手袋をうまく配置して人の手が入ってるように見せれば、雪の中に人が埋まってるように見えるかもしれない。フィジカルな錯視現象だ。

果たしてそういった小道具だけで人が埋まってるように見せることが出来るのだろうか。

(text by 小柳健次郎



落ちてるのか埋まってるのか

まず雪の上に手袋が落ちてるところを見てください。


(これはワザと落とした私物の手袋です)

これを見て「人が埋まってる!」と思う人はあまりいないと思う。なぜなら手袋がペッタンコで横に投げ捨てられており、中になにも入ってないことが分かるし、埋まってたとしても不自然な形だから。単に手袋が落ちてるとしか思わないだろう。

 

手袋に生を与えて雪に差す

じゃあそういったこと(ペッタンコ&不自然な形)を直せば、雪に埋まってるように見せることが出来るかもしれない。


そういうわけで作りました。

中に新聞紙を詰め込み、棒を付けて手袋を履いた手を擬似的に再現。これを埋まってるような感じで雪に差してみた。


「ワー」

「ウワー」

いきなりだけど、すごい見える。いつもならここで自分以外の人も同じ感覚なのかどうか不安になるところだけど、今回のはさすがに自信が持てる。間違いなくそこに埋まってますよ。

 

長靴を足したらファニー

手袋だけでも十分見えるけど、長靴も追加してみよう。


なんか楽しそうだ。

長靴を足したら突然全身像が浮かびあがって見えるようになった。そしてほのかにファニーな雰囲気が漂い始めてる。昔のカートゥーンのような、猫がネズミを追いかけてたら雪に埋もれた、みたいな感じの。


こんなことも出来る。長ーい。

 

鼻とメガネ

もっと説得力を出すためにさらにメガネを置いてみる。


だいぶこの人がどんな人間か分かってきましたね。

この楽しげに埋まってる人がどんな人物なのかかなり分かりだした。「メガネ=知的」というイメージはちょっと陳腐でいまどきそれはないだろうと思うけど、やっぱりメガネを追加したことでこの埋まってる人は多少知的な感じが出た気がする。

右下の白いのはポケットに入れてたら削れてしまったところ。

さらにここでもう一つアイテムを使う。それは鼻。

鼻は当初、粘土で作ろうとしたけどうまくいかなかったので、自分の鼻を型取りし、それを石膏で固めて作った。一人で自分自身の鼻を型取りするのは初心者には難しく、なんども失敗したり窒息しそうになったりしてようやく成功したのが写真のもの。といっても出来たとき特に感動はなかった。たぶん元々の鼻の形が不格好だからだと思う。

そんな話はどうでもよくて、鼻を置いてみよう。よりリアリティが増すはずだ。


なんかちょっとイヤな感じの人になった。

人間味が増したと言えばそうかもしれないが、ちょっとこの人はあまり近づきたくない。なんというか、「こういうことしてるオレって面白いでしょ」と言ってるような気がする。

いったいその感覚はなにが原因なのか。鼻とメガネを足して出たものなので、原因は鼻かメガネにあるはず。でもせっかく作った鼻を外すのはイヤなので原因はメガネにあるとムリヤリ思い、メガネを取ってみた。すると、


バババーン!

とヤケに元気の良いキャプションを書いてしまうようなものになった。でもメガネを外したことによって人物像が縛られなくなり、見る側の想像力が介入する余地が出たと思う。

これによって「雪に埋もれて自分のユーモアをアピールするインテリメガネ」から「埋もれちゃったりしたけどわたしは元気です、と健気に振る舞ういい人」に自分の中で人物像を変えることが出来た。やっぱり鼻じゃなくてメガネを外して正解だった。


「埋もれちゃったりしたけどわたしは元気です」

鼻だけでも埋まってるように見えておもしろい。

おもしろい。

 

 
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