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ちしきの金曜日
 
輪郭線でマンガっぽく
 


 マンガの絵の特徴のひとつに、輪郭線というものを基本にして描いているということが挙げられると思う。油絵や写真とは異なる点と言えるだろう。

 わざわざそんなことを自覚したのは、とある海外のホテルの一室の写真を見たからだ。

 現実にある物体に輪郭線を描くと、マンガっぽく見える。そう言われてもさっぱりわからないと思うが、自分でもやってみたくなるような魅力にあふれた、なんとも不思議な部屋なのだ。

 こうして描いていても話がまどろっこしい。実際にその部屋の様子をご覧いただくことから始めよう。

小野法師丸



●妙な違和感のある部屋

  先に話に挙げたホテルというのは、ドイツ・ベルリンにある「クンストホテル」。全ての部屋は別々のアーティストがデザインしたものらしく、それぞれテーマが違っている。

 中でも特に印象的だったのが、その306号室。部屋の角やへり、置かれている物の輪郭線がわざわざ黒く描かれている。


なんだか不思議な部屋だぞ…

 この部屋、どうやら「コミック」というテーマであるらしい。上のリンク先をご覧いただけただろうか。現実の部屋であるにも関わらず、輪郭線があることでマンガの絵のように見えるのだ。

 見れば見るほど不思議な気持ちがしてくる部屋だ。一見マンガのようであって、よく見ると布団や枕はリアルで、でもやっぱりトータルのマンガっぽさはぬぐえない。

 ちょっとしたことでもあるのに、見る者の視覚に新鮮な驚きを与える。これは自分でもやってみたい。

 

●なかなか難しいマンガっぽさ

 マンガっぽく見える理由は、輪郭やへりを黒い線で描いているからなのだと思う。同様のことを身近なものでもやってみたら、同じような印象を与えるものになるのだろうか。


まずは単純な形で実践

 とりあえずは部屋にあった白い箱を用意。シンプルな形のもので試してみたい。そういうわけで、それぞれの辺に沿って黒いビニールテープを貼ってみた。


うーん…

 うーん、正直なところ、「へりに黒いテープを貼った箱」という風にしか見えない。マンガっぽさは感じられない。

 なぜなのだろうか。形が単純すぎるゆえにマンガっぽさが現れる余地がないのだろうか。その推測にも自信が持てないまま、別のものでも試してみる。


少し立体的なお皿は…
やはり難しい

 引っ込んだ形で少しだけ立体的になっているお皿で試してみたのだが、結果はどうも期待しているようにはならない。マンガっぽさを意識してじーっと見てみても、うまく見えない。

 対象とする物が、今回試みていることにはふさわしくないのだろうか。謎は解けないままだ。


続いてはティッシュボックス
黒マジックで線を描いていく

 今度はティッシュボックスで試してみる。最初にやってみた白い箱と似ているのだが、商品名や模様が箱に描かれている点が異なる。

 その部分も含めて輪郭線を描いてみた結果がこれだ。


微妙なところまでは行ったか?

 …どうだろうか。マンガっぽく見えるだろうか。

 この写真を見たウェブマスターの林さんの感想は、「なんというか、そう言われてみれば…」という感じ。確かにその通り、例の部屋のおもしろさに全く近づいていないわけではないのだが、インパクトとしてはまだまだ不十分なのだ。

 例の部屋は目に飛び込んだときからマンガっぽく見えるのに対し、この写真では「マンガっぽく見よう」という意識の助けを得て、やってかすかにそれっぽく見えるかも、というところだろう。

 マンガっぽく見える要素の正体をつかみきることができていない。やってみる前には簡単にそうにも思えたのだが、あの部屋は相当工夫してデザインされたのだと思う。

 

●変化し始める方向性

 これまではどちらかというと単純な形で試してみたのだが、そこがマンガっぽく見えなかった原因なのかもしれない。反対に複雑な形で試してみれば違う結果が出るのではないだろうか。

 複雑な形。そう考えて思い浮かんだのは、人間の顔だった。


ノーマルモードの自分がキャンバス
アイラインというのを初めて手にしました

 人間がよく見慣れている複雑な形。その代表的な例のひとつは、人間の顔なのではないかと思う。

 顔のパーツに輪郭線を引くことで、マンガっぽさが出てきはしないだろうか。自分の顔なら試すのも自由だ。化粧品売り場で黒いアイラインを買ってきて、実際にやってみた。


輪郭を描いていく

 妻に頼んで鼻や目、眉毛といったパーツの輪郭線を描いてもらう。しばらくの作業後、「まあ完成かな」ということで自分の顔を確かめてみた。


マンガっぽいのだろうか

 うーん、マンガっぽい、と言っていいのだろうか。なんだか分析しがたい違和感。

 例のホテルの部屋に感じたようなマンガっぽさはそこにはない。ただ、実際の人なのに、線で描いた人のようになっている感じは若干感じられる。それもまあマンガっぽさではあるだろうか。


くっきりとした顔立ち
でもそれはプラスの印象にはつながらない

 顔の整った人を言うときの表現として、「目鼻立ちのはっきりした人」という言い回しがある。今回の私も、線を描いたことで目鼻立ちのはっきりした人にはなっていると思う。

 ただ、それは決してプラスの評価にはつながっていないと思う。


さらに輪郭を増やす

 先ほどの写真にはなかった頬からあごの輪郭線もつけてみた。これはあまりうまくいっていない。ただ、新しい方向性の発見があったのだ。


どこかで見たような気もするこの感じ…

 正面から見たときの顔のラインの線を出すために、黒いガムテープを貼っていたのだが、それを見た妻が、「ちょっと待って……。これって、なんかジョジョっぽくない?」と言い出したのだ。

 ジョジョ。荒木飛呂彦のマンガ「ジョジョの奇妙な冒険」に出てくる人のような感じがなんとなく漂っているというのだ。

 どうだろうか。登場人物の誰という風ではないのだが、描いた輪郭ではっきりした顔立ちが、そこはかとなくジョジョっぽさを感じさせる、かもしれない。


どうですか?
どうですかって言われてもねえ

 より雰囲気を出すために、ジョジョっぽいポージングをとってみた。このマンガには「ジョジョ立ち」と言われる、独創的なポーズが多々登場するのだ。

 なにやってんだ、と思いつつ、当初意図していたものとは別のマンガっぽさが出てきたかもしれない。

 ホテル部屋のようなマンガっぽさを出すことにうまくいかなかったのは悔しいのだが、あさっての結果が出てきた。これは成功と言っていいのだろうか。

いつも通りシャツはズボンに入れてジョジョ立ち

  どちらかと言うとアートな出立点だったはずの企画なのだが、こういう方向になってしまった。ここはやはり「申し訳ない」と言っておくべきところだろう。

 意図せず出てきたマンガっぽさ。当初の意図とは大幅なずれはあったが、マンガっぽさという着地点には来れたのかもしれない。


 
 
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