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フェティッシュの火曜日
 
徒歩5分、ダンゴムシ何分?

 

やっぱり進んでない

 実験開始から2時間が過ぎた。しかし、現在地はいぜんとして渋谷駅前。進んだ距離は4m90cm。パルコどころか地下道の入り口にさえたどり着けない。400mまではまだ100分の1だ。二人とも完全に、やろうとしていることの無謀さに気づいた。

 ただ、この頃には、僕はダンゴムシとの一体感を感じつつあった。歩き続けるダンゴムシと、その進路を誘導し、カイロも少しずつ動かしていく僕。一緒に一歩一歩いっしょに歩んでいるうちに、最初は少し気色悪かったこの虫に対して、愛情が芽生えつつあるのを感じた。そのとき。


だんだんかわいく見えてきた
一方、大北くんは牛丼中

 不意に「ちょっといいですか」と聞こえて、顔を上げると警察官がいた。

警察官: なにしてるんですか?
石川: 虫を這わせてるんですけど
警察官: なんで?
石川: 徒歩5分はダンゴムシで何分か調べてるんです

 ええと、この説明でよかったんだろうか。と思ったそのとき、一人の女性が近づいてきた。

外国人女性: イエーイ!
警察官: ここでやらなきゃダメなの?
外国人女性: オメデトウゴザイマース
石川: え、ええ。駅から何分か調べたいので
外国人女性: オメデトー!
警察官: あ…そう。通行人の邪魔しないでね。

 やたらテンションの高い外国人女性が割り込んできたのだけれども、わけのわからなさにおもわず僕も警官も無視してしまった。このときなんとなく警官と僕のあいだに連帯感が生まれたような気がして、このとっぴなシチュエーションがおかしくてたまらなかった。

 あまりのできごとに会話はすぐに切り上げられ、僕の不審行動もうやむやのまま、お咎めなしに終わった。助かった。
スタートから2時間で進んだ距離…4m90cm


そうしている間も歩き続けるダンゴムシ
そうしている間にひとつぶ残らず平らげた大北くん

 

 

あくまで予定のコース
それも調査なのか
すごく見られている

3時間目:中だるみ

 牛丼を食べ終えた大北くんが帰ってきて、さっきの出来事を説明した。「俺が交番の前から写真撮ってたから質問にきたのかもしれない」と告白される。かなり聞き捨てならない話だ。

 この頃になると、ダンゴムシのコントロールにも慣れて少し退屈になり、前日に考えておいた今日のコースについて思い返していた。

(0.駅前交差点は危険なので、避けて地下道へまわること)。
1.地下道の階段はダンゴムシの壁登り術で見事にクリア。
2. センター街は踏まれないように道の端を通る。
3.井の頭通りを横断。丸まって転がって青信号のうちに高速移動。
4.スペイン坂。坂道でうっかり丸まってしまい、転がり戻されてしまうというハプニングもあり。
5.最後の力を振り絞ってスペイン坂の階段を登る。
6.パルコに到着!

 6ステップあるわけだが、現状はと言えば3時間以上たった時点で、まだステップ0。もう誰もパルコに着けるなんて全く思ってない。
スタートから3時間で進んだ距離…9m40cm

4時間目:惰性

近くでテレビの撮影が始まる。女子高生を呼び止めて、「そんなに短いスカートで寒くないのか」という内容でインタビューしている。このダンゴムシ実験も「調査」なら、あれも「調査」。同じくくりか、と思うと心境は複雑だ。

 ダンゴムシ2号の歩くペースが遅くなってきたので、2回目の選手交代。3号の登場。しかし3号の動きがあまりに鈍いので15分でまた交代した。1号再登場。
 一方、大北くんはもういたって自然な感じでマンガを読んでいて、時々思い出したように屈伸をしたり飛び跳ねたりして寒さをしのいでいる。そう、寒いのだ。ずっと外でじっとしているので、体が芯まで冷え切っている。途中でカイロを買いに行って、その暖かさについて二人で語り合った。「あったかくてスゲー!」原始人だ。

 夕方になって人通りが増えてきて、通行人にすごく見られる。女子高生が通りすがりに「ダンゴムシでしょ?」「ダンゴムシだよ」としゃべっているのが聞こえた。さんざん人に見られているので別にいまさら恥ずかしくはない。むしろ、おっ、よくわかったね、くらいに思っている。通りすがりで見分けるのはなかなか目がいいと思う。


大北くんはマンガ中
だいぶ日も傾いてきた

ここまでの足どり

 

依然、駅前からお送りしております

 だいぶ日も暮れて暗くなってきた。3時間半がすぎて、現在の距離は…11m65cm。まだ40分の1。ダメだ、パルコはあきらめよう。そう思ったそのとき、大北くんがなにかを発見した。

 

あ、あれは

 GAPだ。すぐそこにGAP(の袋)があったのだ。パルコは無理でも、あそこまでなら行ける。徒歩5分?そんなことはもうどうでもいい。今日一日いっしょに歩いてきたダンゴムシ。彼らの夢を叶えてあげたかった。さあ走れ、ダンゴムシ。GAP目指して。いつのまにか大北くんも僕も、一緒になって、「いけ!いけ!」と応援していた。


GAPに向かって、すすめ

 

 

今日進んだ距離

 と雰囲気で言ってはみたものの、やっぱりその放置されていたギャップの袋も何メートルか先で、ダンゴムシにとっては遠いのだ。いっぽう僕らのほうはいいかげん寒いし真っ暗だしで帰りたい一心だったので、実験開始から4時間を機に撤収することにした。最終的に進んだ距離は13m75cm。

 立ち上がって後ろを振り返ってみると、すぐ後ろにハチ公改札が見えた。あの改札から、ここまで来るのに4時間。驚くべきスケールの小ささだった。


 

結局のところ徒歩5分はダンゴムシ何分か

結局パルコにはたどり着けなかったので、計算で求めてみる。

4時間で1375cm進んだので、
1375cm÷4時間=343.75cm
ダンゴムシは時速343.75cm。

徒歩5分は400mなので、
40000cm÷343.75cm=116.36時間(≒6981分)

というわけで、徒歩5分はダンゴムシ6981分でした。

実験を終えて感じたことは、人間はけっこうでかいので便利、ということだ。なんたってパルコまで5分でいける。「徒歩5分」の4文字に潜む幸せを、かみ締めた1日だった。

ダンゴムシたち、おつかれさまでした



 
 
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