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ロマンの木曜日
 
隠れ湘南名物「古久家」

湘南名物と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるだろうか?
江ノ島、茅ケ崎、サザン、電車、サーフィン、モノレール、暴走族。
観光地だけあって名物もたくさんあり、数え上げるとキリがない。
しかし、ガイドブックには載っていない隠れた湘南名物があるのだ。
その名も「古久家」。
湘南の人なら誰でも知っているが、それ以外の人はほとんど知らないという古久家。
いったいそれが何なのか、行って確かめてきた。

工藤 考浩



古久家はラーメン屋さん

湘南に古久家という老舗のラーメンチェーンがあるというのを耳にした。湘南っ子なら誰でも知っていると言えるほど有名なラーメン屋らしい。
しかし、東京に住んでいる僕が古久家の名前を聞いたのは始めてだ。
観光地として有名な湘南だが、地元に住んでいる人が観光客に知らせずに、こっそりと楽しんでいるお店があるのならば、ぜひ行って確かめてみたいというのが人情だろう。
さっそく電車に乗って、藤沢駅に向かった。



「古久家」はビルの地下にある

駅前の古いビルの地下に潜入

古久家は小田急線藤沢駅近くのビルの地下にあると聞いたのだが、そのビルの地下への入り口は何十年も昔の看板がそのままになっていて、入ってゆくのが怖い。
何か用事がなければこの階段を降りられないような雰囲気だ。
観光客は絶対に訪れないだろう。


食品売り場をすり抜け
おばちゃん衣料をかき分け
東南アジアみたいなカギ屋を抜けると
この奥に古久家が…あるはずなのだが…

ぜんぜんちがう店の売り場の棚に看板が出ている

再放送みたいだ

階段を伝って地下に降り、古久家を探して店内をさまよう。
ビルの地下は食料品や衣料品のテナントが軒を連ねているのだが、非常に雑多な雰囲気で、数十年前にタイムスリップしたような感覚におちいる。
スカパーでやっている往年の名作ドラマのワンシーンに潜り込んでしまったような店内は、なぜだろう、そこにいるお客さんもどこか昔っぽいたたずまいな気さえする。
どこからか本当にマカロニやスコッチが犯人を追いかけて走ってきそうである。
そういえばたしか、僕が子供のころにはこういう「マーケット」と呼ばれる食品店街があって、母に連れられて買い物にきたよな、と思い出す。


古久家にたどり着いた

古久家もタイムスリップ感満点

外の看板からして、お店の雰囲気は昭和からのままだ。
きっと改装すらしていないのではないだろうか。
しかし、この古久家が湘南の人々に愛されているのは、古い店構えではなくて、そのおいしさからなのだという。
ショーケースにディスプレイされたサンプルを見ると、どれも確かにおいしそうだ。
食べるのが待ち遠しい。

ショーケースのサンプルみたいなショーケース

「食券を先にお求めください」と書いてあるので券売機を探したが、レジでお姉さんが食券を手売りしていた。
ちょっと前まではそれが当たり前だったのに、逆に新鮮に感じた。


文化遺産のような店内

店内がレトロ風にアレンジしてあるので…
ついうっかりいい写真が撮れてしまう

間に観葉植物の入る"ついたて"もなつかしい

ラーメンと焼きそばを注文

メニューを見て、おいしいと評判の「特製らーめん(480円)」と「特製焼そば(580円)」の食券を買い席に着いた。
店内の備品は恐らく昭和40年代のものと思われるようなテーブルやイスが、とてもきれいに使われていて、大げさではなく今がいつの時代なのかわからなくなる。
若いころの高倉健や倍賞千恵子がラーメンを食べていそうな店内だ。
最近はやりの「レトロモダン」などという甘っちょろいニセモノにはない、時代をずっとすごしてきた重みがお店のなかにじんわりと流れている。
こういう景色、絶対に子供のころに見ていた。


こういう店には瓶ビールが似合う

「お待たせいたしました」

注文したラーメンと焼きそばが運ばれてきた。
こういう古いお店だととかく客扱いがぞんざいになりがちであるが、ラーメンを運んできてくれたおばさんはとても丁寧で、このあたりも地域の人から親しまれている理由だろうと思う。


ものすごく普通のラーメンと

あんかけタイプの焼きそば


大変おいしいです

運ばれたラーメンを一口食べて驚いた。
おいしいのだ。
見た目も味もごくごく普通のラーメンなのに、とてもおいしい。
例えば豚骨や煮干しのだしを濃くしたり、油を多くしたり、変わった味にしておいしく感じさせるラーメンはよく口にするが、普通なのにおいしいというのはすごいことだと思う。
しょう油味のラーメンで、いつかどこかで絶対に食べたことがある味だ。なのにおいしい。
焼きそばもおいしい。
かりかりになるまで炒められた麺がやわらかいあんと絡みあって、子供のころにはじめて食べた「中華屋さんの焼きそば」の味がよみがえった。


太めの平麺

あ、うまい

かりっと香ばしく焼かれた麺とあっさりとしたあん

名物にうまいものあり

どこがどうおいしいのか、たぶんだしの取り方とか調味料の分量とか、そういう理由がちゃんとあるのだと思うけれど、僕が感じたのは「丁寧に作っているんだな」というおいしさだ。
調理場の職人さんの気持ちが、ラーメンを運んでくれるおばさんにも伝わって、このお店のおいしさがあるんだろうなと思った。
塩辛すぎないスープは、最後の一滴まで飲み干した。
ごちそうさまを言いたくなった。


うまかったっす

こんどの休みに行っておいでよ

ちょっと遠くてお腹が空くので、行きの電車で食べた

古久家のラーメンは、既食感とでもいうのだろうか、いつか食べたようななつかしくておいしい味と、いつか来たようなお店の雰囲気の既視感とがあいまって、何とも言えない幸せな感じがした。
湘南の人がうらやましい。
いつでも古久家に行けるなんて。
古久家 藤沢店が入っているビルは駅の南口にあるので、僕と同じように駅前を探索しながら行ってみてください。
ちょっと楽しい気分になれますよ。


 
 
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