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ひらめきの月曜日
 
本好きの憧れ!古本屋さん体験


8ヶ月前、近所の空き店舗に、お店が入りました。

「古本 浪漫堂(ろまんどう)」

どうやらその店は、古本屋さんらしい。
本好きの私としては見逃せません。
ちょこちょこ顔を出しているうちに、店長と話をするようになりました。

本好きであれば一度はあこがれる「古本屋さん」。
せっかく古本屋さんとお近づきになったということで、古本屋さん体験をさせていただきました。

加藤 和美



■突撃!近所の古本屋さん

今回おじゃました浪漫堂さんは、店長の白樫(しらかし)さんが一人で経営している古本屋さん。

1日中本に囲まれて、読みたい放題。
本好きとしては非常にうらやましい環境だ!


こちらが浪漫堂さん。まわりは普通の住宅地。
10坪ほどの店内は明るく、手作りの本棚が並ぶ。
児童書も多い。手前は絵本コーナー。
左にある大きな「ドラえもん」は展示用。外に向けて置いておくと、通りすがりの小学生が読んでいくらしい。

 

あきれている店長を尻目に、小物を装着。

私のイメージする「古本屋の店主」!手にはハタキ。

■古本屋といえば…

浪漫堂に到着するなり、衣類を取り出して着始める。
今回、古本屋さんを体験するにあたり、どうしてもしてみたい格好があった。

それがこちら、「私がイメージする古本屋の店主」。

主な構成アイテムは

  • 毛糸の帽子
  • 変なガラのチョッキ
  • とっくりセーター
  • 黒縁メガネ
  • 手にハタキ

…これだ。ばっちりきまった。
店長にも、「店になじんできた」と言われた。

いい気分になっていたら、同行者が立ち読みしていたのを発見!
親のカタキのように、ハタキで撃退!
これこそ古本屋の醍醐味!? とひとりで悦に入っていたら、店長いわく

「そこまでして立ち読みしてる人なんかいたら感激するよ。俺の珠玉の本をそんなに読みたいか!って、お茶出しちゃうかも」
とのこと。

ほほう。
ちょっと聞くだけでも奥深そうな、古本屋さんライフを直撃してみよう。

1度やってみたかった、「ハタキで立ち読みする客を追い払う」。しかし、こんなに激しく追い払ってはいけない。
こっちがホンモノの店長。本に埋もれ中。

 


■本に値段をつけてもらおう

古本屋さんということで、まず「本の買い取り方」を教えてもらうことにした。

実際に自分の本を持参し、売るとしたらいくらで買ってくれるのか聞いてみるのだが、本好きの同行者が「自分の本も、値段をつけてほしい!」と言い出し、本を持参してきた。

はからずも、「どっちの本が高値をつけてもらえるか勝負」のような展開に。

 

永久保存版です。私の。

実は店長も水木好き。
それを狙ってのチョイスだが、高値はつくか?

■1冊目は水木しげる!

まずは私から。水木しげるの画集をセレクト。定価は4500円だが、amazonでも在庫がなく、買い取り価格が最安値で7800円になっていたというこの1冊。

本を出すなり、店長はまず状態を確認。
価格をつける際に、一番最初に見るのは状態とのこと。
また、この画集が初版であるのも確認していた。
版を重ねると微妙に本が変わる場合があるそうだ。

自分では大事に扱っていたつもりだが、店長さんから「帯がちょっと切れてる」と指摘された。うーん、もっと大事にするべきだったか。

店長さん、本の装丁や中身をじっくり見た後、
「うちの値段は8割がた、趣味だから」

というわけなので、今回の記事の情報は、あくまでも浪漫堂さんのみで通用する情報ということで、ご了承いただきたい。

 

じっくり観察した店長さんが、値段を出してくれた。

「妖怪伝大図鑑」水木しげる

定価:4500円
買取価格:3500円
販売価格:売らないで自分のものにして、困ったら売る 

いきなり「買い取るけど売らない」との返答。
まあ私自身も、この本は大事にしていて売る気はないのだが…。なかなか良い反応で、気がよくなる。 

 

水木センセイの人生がつまったパンフレット。

■2冊目も、水木しげる

次も水木しげるモノ。というか私は、高い本は水木しげるモノしか持っていないのだった。

これは水木しげる展のパンフレット。分厚くて内容も濃いうえに、もう売っていないので価値があると思うのだが…。

この本を出すと、「俺も見に行きたかった!」といきなりくやしがり、じっくり見る店長。値段付けのためでなく、趣味で見ている。

だいぶたってから、店長が顔を上げた。

大水木しげる展パンフレット

定価:2000円
買取価格:5000円
販売価格:さんざん読んでから、売るか考える

本として販売していない、ということが高値につながったようだ。

 

私の持っている中でも一番!と思って持ってきた、妖怪の画集だが…。

■定価が高い、妖怪画集

最後に取り出したのは、鳥山石燕(とりやませきえん)の「画図百鬼夜行」で、簡単に言うと江戸時代の妖怪画集だ。
「おまえんちの高い本と言えば妖怪だけか」と言われたら、素直にうなずくしかない。

定価が高いので自信があったのだが、店長の心は動かなかったようだ。
「これ、どうしろっていうの。水木さんと並べるか」

店長としては、「店にどう並べるか」も気になるらしい。
「京極夏彦と並べたらどうですか」と提案したら、納得してくれたが、さて…。

「画図百鬼夜行」鳥山石燕

定価:7800円
買取価格:3000円
販売価格:7000円くらい

「古本好きは変人が多いから高く売れるんじゃない」とのこと。私個人としてはもっと価値があると思っていたのだが、こんなものか。

 

店長に「たぶん売れなくて、店のヌシになって、イヤなことが起きはじめそう」とまで言われた心霊写真集たち。

■あまりにもスキマ産業な本

さて次に、本好きの友人が取り出したのは、中岡俊哉の「恐怖の心霊写真集」全7巻…。二十数年前のものだ。

これを全巻集めるために、札幌じゅうの古書店をめぐり、それでも手に入らなかった本はamazonで購入したそうだ…。

店長は腕組みをしたまま固まって、「古本屋を困らせるねー」と悩んでいる。見かねた友人が「いいんです、ズバリ言ってください!」と店長を促した。

値段をつけるだけなのに、何だこの人間ドラマは。

「恐怖の心霊写真集」全7巻 中岡俊哉

購入価格:7冊で5200円
買取価格:7冊で400円
販売価格:7冊セットで1000円

「そろってるから、その努力をかう」と言われ、価格はともかく友人は満足そうだった。

 

店長もこれには興味深々。
2人で映画秘宝談義に花を咲かせていた。

■知る人ぞ知る…

つづいて友人が取り出したのは、雑誌になる前の「映画秘宝」全巻と、「映画秘宝」の前身になった本の、計15冊。

本によってテーマはバラバラだが、店長は「ブルース・リーと101匹ドラゴン大行進!」に食いついた。

「これ欲しいなあ」「手に入りづらいものもあるよ」とつぶやきながら、電卓を叩く店長。

映画秘宝ムック 15冊

購入価格:15冊で20682円
買取価格:15冊で6000円
販売価格:気持ちがこもってるから1冊500〜1000円

この価格になった理由は「全部読んだらめまいがするくらいの情報量だから」。

買取時の基本は、「店長がぐっとくるかこないか」で増減されるらしい。

 

■珍品見せてください

売らないくせに、持参した本に値段をつけてもらっていると、店長が
「本来ならこっちが本を紹介するはずなのに…」
と言い出したので、何か良い本を紹介してくださいと言うと
「そんなもんないよ」
と言われた。

いやそんなことはないだろうと、勝手に店内を漁らせてもらった(売り物ではない本も含め)。

 

以下、琴線に触れた本たち…。


中国語版の一休さん。と思いきや、模写!

昭和の子供向け広告が満載の「ちびっこ広告図案帳」。私より若干上の年代だが、何だろうこの懐かしさ。
昭和4(1929)年の、小学生向け読み物。イラストが非常に味わい深い。
こちらも古い本、「女子修身 巻四」。修身というのは道徳のような授業だそうだが…。
なんと発行は大正12(1923)年!関東大震災のあった年。持ち主の名前も書いてあったが、存命だろうか?

このように、ユニークな珍品がたくさんあった(もちろん普通の本もあるので、誤解のないよう)。

「うわー、すごい、面白い!」と大興奮で眺めていたが、店長に「これ買う?」と聞かれるとトーンダウン。

…すいません、買いません。

 

洗剤をつけて、本のカバーをみがく。

前の持ち主の書き込みを発見し、ほほえましく思いながらも、本の価値は下がるので複雑な気持ちに。

価格を決めて、値札を書く。本の中に書き込みがあるので、値段を下げるべきか悩み中。

価格のところに「書き込みあり」と注釈をつける。元の持ち主は真面目に勉強してたんだろうなあ…。

宗教関係の研究書なので、似たようなジャンルの棚に置く。間違えてホラーのところに置きそうになった。

気になる本を見かけて座り読み。目に入ったらすぐ読んでしまう私は、本屋に向いていないかもしれない。

■お話を聞いてみた

このままだと、売りもしない本を持ってきたり、買いもしない本を漁っているだけの迷惑な人になってしまうので、作業をお手伝いしながらお話をうかがうことにした。

――まずお店を持つにあたり、何をしましたか?
白樫さん:まず「安くて住居つき」という条件で店舗を探して、たまたまここが開いてますよと。住居つきにしては安くて。(札幌の)相場としては、駅から近くて10坪くらいだったら、店だけで9〜10万円なんだけど、それより安かった。他に探すのも面倒だったし。

――開店のきっかけは?
白樫さん:勢いだなあ。

――開店するには、売り物の本を集めないといけないですよね。
白樫さん:本は、すでになんとなく集まってたんだよね。もちろんそれだけじゃなくて仕入れもしたんだけど。大型古書店も探したし。

――自分の置きたい本を探したんですか?
白樫さん:救出だね。「こんな本がココにあっちゃいけない!」という本を救出。たとえばさっきの映画秘宝のような、一部の人にとって価値のある本が、100円コーナーに置いてあったら買わなきゃ。ちゃんと正統な値段をつけてうちに置いてあげます、と。

――家賃以外で高かった設備投資とかありますか?
白樫さん:特にないかなあ。カウンターもカラーボックスだし。レジスターと本棚1個くらい。最初からリフォームはしてあった。前は居酒屋だったって聞いたけど。

――私、この界隈に10年以上住んでますから知ってます。居酒屋の前は中華料理屋で、よく来てました。夫婦でやってたんだけど、おじさんが病気になって店をやめたんですよ。ホイコーロー定食がおいしかった。懐かしいなあ…。
白樫さん:この建物は築40年くらいだって。

――開店は2006年の6月。8ヶ月たって、どうですか?
白樫さん:どうにもこうにも。長くやりたいんだけど厳しいね…。まあ楽しいからいいか。

――お店を続けていけそうですか?
白樫さん:10年続けたいと言ってたけど、3年にしたよ。

――でも、経営は悪いスパイラルではないですよね?
白樫さん:悪いスパイラル中だよ。うまくやらないとサヨウナラだよ。

――ええっ!?
白樫さん:古本屋はどこも大変だもん、明日どうしようかって。

――なるほど…。お客さんはどういう人?
白樫さん:お年寄りが多いな。読んで、売って、また新しい本を買っていく人がいるよ。「今日はどれを借りていこうかな」って言いながら。

――自分の私物の本もあるんですよね?
白樫さん:あるよ、そのへん(カウンター周辺)に積んであるやつ。

――売りたくない本はどうするんですか?
白樫さん:高くつける!

――前職は何をしてたんですか?
白樫さん:学童保育の指導員やってたんだけど、あんまり関係ないね。本は昔から好きだったし。

――このお仕事、本の話ができるのが面白いですね。
白樫さん:それはある!前は本の話ができないっていうのがストレスで。本読んで面白いなあって思っても、同意してくれる相手がいなくて。基本的に古本屋には、本好きが来るし。

――お客と語ったりするんですか?
白樫さん:よく考えたら、俺、知らない人としゃべるの得意じゃないんだ。

――ええっ!?
白樫さん:なんで客商売やってるんだろう。わりと人見知りだしね…。お客さんが来て、声かけようかな、どうしようかな〜と悩んでるうちに帰っちゃう。

――(笑)
白樫さん:そういうのを繰り返してる。たまにお客さんに声かけたら、話が続かないで、何も買わないで帰っちゃったりして。

――せつない!でも、話しかけてほしいのかそうでないのか、わかんないですもんね。
白樫さん:最近ちょっとわかってきた。お年寄りはまず話しかけてOK。逆に戦争の話を始められたりして。「この本いいですよー」なんて話しかけて買ってくれたりしたらうれしいね。あんまりやりすぎると、俺のお勧めでしか買わないような客がいてね。

――いいじゃないですか。
白樫さん:プレッシャーなんだよね。「前にすすめられたアレはイマイチだった」とか言われて。逆にお客さんの方から「これが面白い」って教えてもらって広がったりすることもある。あと、変な本をすすめてしまって、後悔したりとか。

――何か言われたんですか?
白樫さん:そのお客さん、それっきり、来なくなった。

――切ない…。

 

白樫さん、ありがとうございました!




■本はロマン

日々「忙しい、時間がない」なんて言って、時には本を離れてしまうこともあるけれど、やっぱりときめく本屋さん。

一見、普通に本を並べているだけに見えますが、よーく見ると店長さんの熱い思いが本の並び方から汲み取れます。

「いいから、これを読め!」

本というのは、書いた人と、読む人ありきですが、実は売る人の気持ちもこもっているのだなあと新発見。

古本というのは基本的に、すでに誰かが手にとって、読んだ本です。
読み終わって、「フー」とひといきついた時に、前の持ち主はどう思ったのかなあ…と、そっちの方に思いを馳せるのも面白いかもしれません。

というわけで、よりいっそう、古本屋さんにロマンを感じたのでした。

自分で持ってきた本にPOPを書いてみました。売らないけど…。

取材協力

■古本 浪漫堂

札幌市豊平区平岸3条7丁目2−3
TEL&FAX 011−557−7541

平日:10時〜21時30分
日祝:12時〜20時
水曜定休 


 
 
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