まずは外宮へ

伊勢神宮は外宮（げくう。天照大神の食事を司る神を祀る豊受大神宮）と内宮（ないくう。天照大神を祀る皇大神宮）の両大神宮を中心とした、125の宮社の総称である。

えー、持ち帰ったパンフレットを見ながら書いてみたのですが、間違ってないでしょうか。大丈夫ですか。

外宮と内宮があるのは知識として知ってはいたが、それらがどのくらい離れているのかや、それぞれの規模などは分からないことだらけである。どういう順番で回ればいいいんだろう？　

そのへんの判断は、伊勢が二度目のＡさんにお任せすることにした。と、Ａさんは「まずは外宮へ行くわよ」と言うとさっさと歩き出した。あ、歩いて行けるんですか。

「まずは外宮をお参りしてから内宮へ。そう決まってるのよ。お楽しみは、まずは心と体を清めてから」
──お楽しみって、食べること？
「もちろん！」
──だよね！　早く行こう、早く回ろう！

自然、ちょっと早足になる２人。

雑念だらけだったハズなのに、一歩中に足を踏み入れた途端、なにやら気持ちがシンとしてきた。空気が違うのだ。ものすごく緑が多い。

「ほら、なんだかスピリチュアルでしょう」とＡさん。
──スピリチュアルというか、なんかスゴイね。圧倒されるね。

中には鳥居が数カ所あり、様々な神が祀られている。「撮影不可」と書かれた建物も多い。とにかく、やたらに広大だ。高低差もかなりある。

ひとつひとつのお社をきちんとお参りすると、かなりの距離を歩くことになる。思った以上の運動量だ。すごい。なんかしらんが、すごい。「うわー」とか「おー」とか、そんな言葉ばかりが出てくる。

結局、外宮をざっと一周するだけで１時間以上もかかった。もっと丹念に見て回りたかったが、日帰りの身に伊勢神宮はあまりに広大なのだ。先を急ごう。さあ、次は内宮だ。外宮を見て思ったが、たぶん内宮もすごいぞ。

Ａさんは「バスで行くよ」と言うと、１日乗り放題のバスチケットを買いに行った。つくづくテキパキとした人だ。誘って本当に良かった。

…っていうか、え、バスに乗るほど離れてるんですか？

「ＣＡＮばす」なる観光周遊バスに乗り込み、内宮へと向かう。もう時刻は12時近い。ただでさえ腹の減る時間帯なのに加え、外宮でさんざん歩いた後だ。腹が減った。

そんな状態で、バスは内宮前へと到着。そこで、私は思いがけない試練を味わうこととなる。なんと、バス停が門前町の入口にあったのだ。つまり、門前にある魅力的な店を通り抜けなければ、内宮に辿り着かないのだ。

空きっ腹を抱えて、このあまりに魅力的な通りを、幻惑のストリートを、歩けと？

めまいがする。どの店を見ても「あ〜」と声が漏れる。

そこへ「ダメだよ。清い体でお参りするんだよ。この誘惑に打ち勝ってこそ、なんだよ」と、Ａさんが、まるで自分に言い聞かせるかのように呟いた。

そうだ。彼女だって空腹なんだ。私だけじゃない。

「松阪牛を食べて、ビールを飲んだ後で神様の前に出られるか？　あんたはそういう人か？」

いいえ、違います。違いますとも。

普段はおしゃべりな２人が、すっかり無口になっている。そして歩幅が大きく、足が前に出るのが早い。つまり、すごく早足だ。ゆったりと歩く他の参拝者をどんどん追い抜いていく。

よし。こうなったら、きっちり内宮を見て回ろう。一カ所も抜かすことなく、ちゃんとお参りしよう。お楽しみは、それからだ。試練（？）が大きければ大きいほど、喜びもまた大きいに違いないのだ。

ああ、私はいま、神に試されている…。（と、この時は本気で思った）