ここ最近、刀削麺(とうしょうめん)という、その名の通りに小麦粉の固まりを刀で削った麺料理に大変お熱である。
うどんともラーメンとも全く異なる食感のプニプニツルツルとした独特の麺を、ラー油やら唐辛子やらで真っ赤になった辛めのスープで食べるのがスタンダードだ。
この料理は、麺の旨さはもちろんだが、刀で麺を削る姿を見るのがまた楽しい。厨房では、シャーシャーシャーと実に簡単そうに麺が作られている。
それ、私もやりたい!
(text by 玉置 豊)
刀削麺が好きだ
たまに仕事でお世話になっている事務所近くに、「栄福」という刀削麺を出す店があり、仕事ついでにちょくちょく通っている。
ラーメンに醤油、味噌、チャーシュー麺などと種類があるように、刀削麺にも麻辣麺、担々麺、排骨麺とバリエーションがあり、どれも濃いめの汁がしっかりとした麺とうまくマッチしていて美味しいのだ。
この店は、フロアから厨房が見えるので、シャーシャーシャーとリズミカルに麺を削っている様子を見ながら食事ができ、とても楽しい。
私も削れるようになりたい
刀削麺、見ているだけでも、食べているだけでも楽しいのだが、あの削るやつを自宅でやって食べられたら、さぞや楽しいことだろう。
私も、あれやりたい。 麺、刀で削りたい。
そんな想いを胸に秘めながら店に何回も通っているうちに、フロアのお姉さん、厨房のお兄さんと笑顔で挨拶をする間柄になった。きっともう仲良しだよね。
そこでランチタイム後の店が空いている時間を見計らって、思い切って、「自宅で刀削麺に挑む様子をネット上の記事にしたいから、ちょっと間近で見せてもらえないだろうか」という若干無茶なお願いをしてみる。
OKがでた。よし。
削るところを見せてもらう
突然の不躾な申し出に、店員さんは笑いながら応えてくれ、削る際の構え方や、一番謎だった刀の形状などを見せてくれた。いい人達だ。
ちなみに、いつも華麗に麺を削っている方は、中国山東省出身。刀削麺だけに、山 東省、山 刀削 麺。刀削麺。
でも刀削麺は山西省の郷土料理だ。
そしてここは台湾料理の店だったりする。
刀削麺で使用する包丁は、普通の包丁とは全く違うもので、どうやら薄い鉄板を加工したオリジナル手作り刃物のようだ。青竜刀とかではない。 ※以下、この包丁の名称がわからないので、「刀」と呼びます。刀削麺だから。
刀は手元のところがキュッと曲がっていて、この部分で生地を削り、お湯の入った鍋へすっ飛ばしているらしい。
目の前で実演をしてもらったのだが、均一に削られた麺が、リズミカルに鍋へと吸い込まれていく様子は見事である。
なるほど、これは素人には無理だ。
よく、「最初に削った麺と、最後に削った麺の茹で時間が違うのでは?」といわれる刀削麺だが、この早さで削っていれば、そんなのは誤差の範囲だろう。
削らせてもらった
華麗な削りっぷりに見とれていたら、ニヤリとニヒルに笑い、私に手招きをした。お姉さんの通訳によると、「やってごらん」ということらしい。やったー。
せっかくの申し出に甘えさせていただき、手をよく洗って厨房に入る。ドキドキしてきた。
さあ、修行の始まりだ。中国四千年の歴史を体得するのだ。
お互い言葉が全く通じないので、手取り足取りボディーランゲージで修行は進む。
まずは削るためのフォーム作りから。生地が乗った木の板を左手に持ち、板の手前側を左肩にくっつけて固定する。この時、左手の指が板からはみ出ていると刀で怪我をしてしまい、血生臭い刀削麺になってしまう。
続けて、右手で持った刀を、小麦粉の固まりとほぼ並行に構えて、まっすぐ滑らすように削る。
このように文字にすると簡単なのだが、実際は、あれ、できた。
実演を目の前で見せていただき、手取り足取りフォームを教えていただいた成果がでて、最初のトライで無事に刀削麺らしきものを作ることに成功。
よし、修行完了。
もちろん私が作った麺と、プロが作った麺では雲泥の差なのだが、自分で食べる分にこれで充分。これ以上お店の人に迷惑をかけてもいられない。
お店に行って、店員さんと仲良くなったのは人生初だぜ。
ちなみに、刀削麺を削っていって、小さくなって削りづらくなった生地は、ちぎって延ばして餃子の皮になっていた。
さすが中国四千年、とても合理的だ。
お店のご厚意のおかげで、刀削麺の作り方がなんとなくわかった。
刀削麺を作るには、まずはあの刀を作ればいいのだな。