よく「僕は神奈川(出身の父)と新潟(出身の母)のハーフなんだよね、あはははは」と言う人がいますが、その言い方で言えば、私は愛媛と横浜のハーフだ。
とくに父の故郷、愛媛には複雑な感情がある。実際には住んだことがないのだけれども、父が家の中で方言を時々喋ってたし(「〜じゃけんのう」「けったくそ悪い」とか)、冬場には段ボールで送られてきたミカンが「これ普通じゃないよねえ」っていうくらい、異常な量あったし(一日アベレージ2ダース以上食べてた、食べ過ぎて足の裏が黄色くなった)。
精神的に近いような、でも遠い、微妙な距離感の場所なのです。
おじいちゃんもおばあちゃんも父も、もう死んじゃっていないので、もうほとんど行く機会がない。でも、小さい頃の正月や夏休みは、遊びに行った。山と田んぼの中の家で、もちつきしたり、スイカとったり、近所の池で魚釣ったり。
しかし悲しいことに、いちばん覚えてるのが「食事が、つ、つらい……」という記憶。
ハンバーグやグラタンやカレーが好きな子供にとって、あちらの名産……甘い醤油で食べる、とれたて魚介類や、フカの湯ざらし(酢みそで食べる)、じゃこ天(魚のすり身を小判型に揚げたもの)、やはり甘く独特な風味の麦みそ味噌汁などは……ショックを超えて「無理!」という物件であった。
おばあちゃんは、食のすすまない孫を見て悲しかったかもしれない。申し訳ないことをしたなあと思う。でもやはり、愛媛フードの基礎体力のない年齢ヒトケタの子供が、フカの湯ざらしを好きになるっているのは、ハードル高かったんじゃないかなあ、とも思う。故・ばあちゃん、ごめん。
でも今なら食える。ぜひ食べたい。酒のつまみにぴったりだ。じゃこ天なんか最高だ、東京・新橋の「香川・愛媛 せとうち旬彩館」に売ってるやつを、数年前になにげに買って、食べたらびっくりした。超うまーい! その時、同席してたライター高瀬さんも「う、うまーい」と感動していた。2人でもしゃもしゃ食い、お酒を飲んだ。大人になるって素敵。
で、そんな愛媛フードの記憶の中で、ずっと謎の物件があった。
「けずりかまぼこ」だ。
ネーミングそのまんま、乾燥したかまぼこを、かつおぶしみたいに、けずってあるというしろもの。 |