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ちしきの金曜日
 
アロエ部


高校3年生の3月。卒業式のあとの教室。仲の良かったクラスメートたちがふざけて第2ボタンを渡したりもらったりしている。

そういうのは上級生の男の子に密かな恋心を抱き続けた下級生の女の子が、ありったけの勇気を振り絞って譲渡を申し込む、とても神聖なものなんじゃないか、と思いながらぼんやりとその様子を眺めていたら、いきなり彼女が近づいてきてぼくに言った。

「大山くんには去年もらったからいいよね」と。

(text by 大山 顕



高校生の頃、ぼくは「マジック同好会」と「アロエ部」という部活に所属していた。マジック同好会は要するに手品を楽しむ部活動で、「アロエ部」とはあの多肉植物を育て、愛でる部活動だ。

びっしりと育ったアロエ
ぽつりと育つアロエ

どうしてそんな部活動ができたのか分からない。全国の高校を探してもぼくの高校だけじゃないだろうか、「アロエ部」なんてものが存在するのは。もしかしたら世界で唯一かもしれない。

アロエ。高校生が熱意を傾けるような代物じゃない。現に「アロエ部」の活動としてなにかやった記憶がない。部室の玄関脇の土の部分に盛大に育ったアロエがた しかに存在したが、とくに育てると言うほどのことはしていなかった。ほったらかしだ。アロエはとても強い植物なので何の問題もなかった。


玄関の脇で勢力拡大中のアロエ
だんだん隅に追いやられるアロエ

自分でも分からないのは、なぜそんな部活動の一員になったかということだ。アロエに興味なんかなかったのに。

そしてももっと分からないのはなぜ彼女がそんな部活動の一員になったかということだ。同級生の部員はぼくと彼女だけで、そして彼女はとてもすてきな女性だったので、実際のところアロエなんてどうでもよかった。


同居するアロエ
アロエ兄弟と金のなる木兄弟

出来事は、ぼくと彼女の卒業式のちょうど1年前にさかのぼる。

ぼくらは2年生。アロエ部の先輩が卒業式の後、部室にあいさつに来るというのでぼくは部室に向かった。ぼくはマジック同好会にも所属していて、そちらに先に顔を出したのですこし遅れてアロエ部の部室に着いた。


上と下を固めるアロエ布陣
ひっそりと、アロエ

校 庭のすみっこに建てられた2階建てのプレハブの一番はじっこの狭い部室のドアを開けると、先輩と彼女だけがいた。ドアの音にふたりはちょっとびっくりした ように見えた。その様子を見てぼくの心臓のあたりがチクリと傷んだ。ぼくは密かに彼女に好意を寄せていて、そして彼女は先輩に好意を寄せていた。先輩は背 が高くてかっこよくて、とてもモテる男だった。彼女にしろ先輩にしろ、なんでそんなかっこいい人たちがアロエ部なんて地味な部活をやっていたのか不思議 だ。

先輩の代のアロエ部員は彼1人きり。そもそもそんなに大勢の部員が在籍するような部活じゃない。活気はなかったけどぼくには居心地が良かった。



 

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