いきなりだが、来月ウィーンに行くことになった。
今から「なにかいいネタはないか」と考えているのだが、私にとってウィーンといえば「ウィンナーコーヒー」くらいしか思いつかない。あとは生誕250年を迎えたモーツァルトか。いや、モーツァルトは食べられないな。
そんなわけで、漠然とウィンナーコーヒーのことを考えていた。あれは素晴らしいアイデアの飲み物だと思う。生クリームを泡立てることでコーヒーに浮かせるという、この斬新なアイデア。日本には、そんな食べ物はないねぇ。ないよねぇ。
ないなら、作ってみよう。材料は卵とごはんだ。
(高瀬 克子)
新たなアプローチ
最近の「卵かけごはんブーム」は、専用の醤油が発売されたり、高級卵が話題になったりと、それなりに盛り上がったようだが、ひと息ついた感がある。
今回は、そんな高級食材に頼らずとも、自力で新たな局面から卵かけごはんにアプローチしてみたい。
そう、卵を泡立てるのだ。
ウィンナーコーヒーは、浮いている生クリームを楽しみながら飲む。少なくとも私はそうだ。クリームでヒゲを作ってふざけたりして本当に楽しい。
卵かけごはんだって、卵を泡立てたなら、いつもと違った楽しい食卓になるのではないだろうか。
たとえば、友達の子ども(5才)は偏食がひどく、卵かけごはんが主食と言ってもいいくらいだ。
そんな子にとって、食事は苦痛だろうか。でも大丈夫。大人になったら、いま食べられない物の8割は食べられるようになるよ。だから、大丈夫。
おばちゃんが今から、面白い食べ物を作ってあげよう。
それにしても、空気を含んだせいで量がすごいことになってしまった。これは偏食の子どもを楽しませるより、極貧家庭にこそ用いられるべきワザなのかもしれない。
醤油を入れるタイミングがなかった(泡立てるのに必至だった)ので、それは後で上からかけた。
結局、泡立てた卵は茶碗に全部入り切らなかった。見た目にはフワフワときめ細かな泡が立ち、大変に可愛らしい。いや、これは「とろろ汁」に近いか。
箸でごはんを持ち上げようにも米のありかが分からないので、ひとくち目はスプーンを使うことにした。
きっと味は、いつものあれに違いない。でも食感はどうなんだ? 単にクリーミーな卵かけごはんなのか?
口に入れた途端、小さな空気の粒のようなものがにブワッと広がり、なかなか飲み下すことが出来なかった。当たり前だが、とにかくアワアワなのだ。空気が邪魔なのだ。一度にたくさん食べたなら、絶対に後からゲップの連発だ。
あれー、おっかしいな、おばちゃん、またワケの分かんないもん作っちゃったか?
頭の中に「失・敗・作」の文字が浮かんでは消える。
「うーむ、どうしたもんだろう」と腕組みなどしてるあいだにも、泡はシュワシュワと消えてゆく。…もしや、これの食べどきって、今なんじゃないか? ていうか、張り切って泡立てすぎたか?
今度は箸で持ち上げて、口に入れる。
…うん! これはうまい。これこれ、これですよ! 卵かけごはんがフンワリしてるんですよ!
ほら、普通の卵かけごはんって、たまに白身が「ドゥルン」って固まりになってるところがあるでしょう。あれが苦手な人にも、これは非常にオススメできます。
あと、生卵が苦手な外国の方も、これなら抵抗なく食べられるんじゃないでしょうか。(見た目の話ですが)
いやぁ、久々にウマイ物を作った気がしてきた。調子に乗って、もうひとつ作ってみてもいいですか。
そう、全卵バージョンの後は、黄身と白身を別々に攻めてみたい。
今回は、醤油を入れるタイミングも考えた。卵黄と一緒に泡立ててしまおう。それを、上からソースのようにかけて食べよう。きっとウマイよ。
…ああ、楽しいねぇ。こういうことを考えている時が、おばちゃん、一番楽しいねぇ。
醤油と一緒に泡立てた黄身が、まるでウニのように美しい。そして非常においしい。泡が全卵の時より細かいせいか、空気も口の中で邪魔にならない。
黄身をソースのように少しずつ崩しながら食べ進めていく。ああ、なんて不思議なんだ。見た目はコレなのに、味はいつもの「卵かけごはん」だ。
これは早く友達の子どもに教えてあげたい。そして、出来れば一緒に作って、キャッキャと楽しみながら食べたい。
忘れてましたが
ウィーンの話です。冒頭ではあんなことを書きましたが、イタリアに「ナポリタン」という名前のスパゲッティがないように、ウィーンにも「ウィンナーコーヒー」という名前の飲み物はないらしいですね。
ということは、泡立てた生クリームをコーヒーに乗せ始めたのは日本人ってことですか? アイスコーヒーも日本で考案されたというし、つくづく日本人ってあれこれ工夫して食べるのが大好きなんですなぁ。
卵を泡立てたり、その泡をしぼませたり、さらには黄身と白身を別々に泡立てたりするのも、日本人ですからこの際すっぱり諦めようと思います。