とりあえず生活してみよう
手がハサミになってしまったからって悲嘆にくれてばかりもいられない。ちゃんと毎日はやってくるのだ。その証拠にいつも通りに便意をもよおした。
手がハサミだからって食事はとらなくてはならない。そう思いサンドウィッチに手を付けたがやはり口に運ぶ前に切れた。
しかしよく考えたらカニとかエビとか生まれつき手がハサミだ。なのにああやってポジティブに生きているじゃないか。後から同じ状況に置かれたとはいえ、より高等なヒトが順応できないはずはない。ということでめげずにバナナを食べたい。
両のハサミで上手に食べます。
だけどちょっと力を入れると切れちゃうので注意が必要。
結局ろくに食事を取ることすらできなかった。キャップを切って中身を吸うだけ、みたいなゼリー状の食事を買ってこよう。手がハサミになると食生活も変わるのだ。
食事はいいので仕事に出かけよう。「手がハサミになったので休ませてください」なんて上司に電話をかけたらたぶん「もうずっと来なくていいよ」って言われるだろう。大人としてこのくらいのことでは休んでいられないのだ。
でもネクタイを結ぼうと思ったらつい力が入って切っちゃった。
まあいい、どうせ僕はスーツを着るような仕事ではないのだし、やってみたかっただけなのだ。適当に着替えて仕事に出かけようと思う。