塩に豪快に手を突っ込みます
いまさら躊躇
まずは、記念すべき第一投目の塩を手に取った。
実家では大きな樽で白菜漬けを作っていたが、その時でもこれほどまで大量の塩を掴んだことはない。 これを撒くのか…。大相撲の塩には土俵を清める意味があるが、この塩にはなんの意味があるのだろう。
しばし、塩を見て思いにふける。
撮影をお願いしたIさんに「じゃ、撒きます!」と宣言するものの、なかなか次の行動に移せない。やはり、どこかに罪悪感があるのだろうか。
ああ、どうしよう。
(以下、塩との対話)
君たちにはいろんな運命があるんだ。歯磨きやマッサージに使われる者もいれば、盛り塩として軒先に置かれる者もいる。君は、私に撒かれてくれ…。
(対話、終了)
いつまでも塩を睨んでいるわけにもいくまい。「ええい、ままよ」とばかりに塩を撒いた。
塩が弧を描いて青空にパーッと舞い、一瞬のうちに落下。…あっけない。
このあと力士は取り組みに挑むわけだな。しかし、なんか雰囲気が出ないなぁ…、と思っていたところ、側で見ていたIさんのご主人に、次のような指摘を受けた。
「撒いたら立ちっぱなしではいけないのではないか」 「仕切りのために土俵の中央に進まないと」
あ、そうか。このご主人、実際に相撲を取っていたことがあるだけに、さすが目の付けどころが違う。せっかくなので実演ねがった。
おお、一気にシート上が土俵っぽくなってきた。
そうかそうか、塩を撒くというのは、一連の流れの中で行われる所作であるのだな。撒きっぱなしでボケーとしていては、雰囲気が出ないのも当たり前だ。
動作をつけて塩を撒き続けたものの、問題は音だった。
バッシャーン!
シートに落下する塩の音が予想外に大きく、その音にこちらがビビってしまう。周囲の花見客も音に反応し「何ごとか?」とばかりに、いちいちこちらを振り返る。
ああっ、すみません、うるさくてすみません。場所を変えさせていただきます。