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美しい。っても、まあただの歩道橋ですが。 |
ぼくが子供の頃「交通戦争」なる言葉がまだあった。高度成長期に重大な社会問題であった交通事故の状況を指して昭和30年代後半から言われるようになった言葉だ。
交通事故に対して「戦争」などとセンセーショナルな用語を当てたものだなあと思ったが、ものの本を調べると、昭和20年代後半から40年代の後半まで一貫して交通事故件数は増え続け、なかでも特に東京都では交通事故死亡者数における子供の比率が非常に高かったそうだ。非常に深刻な事態であったことがうかがえる。ちなみにぼくが生まれた昭和47年時点では、東京都における交通事故死亡者に占める5才以下の幼児の割合は実に70%を越えている。
さらに東京オリンピック前になると、都内のいたるところで建設工事が始まり、たくさんのトラックが道路を行き交うようになった。そういえば、ぼくが小学生の頃の交通事故のイメージは「ダンプ」だった。今「ダンプ」って言葉使わないよな、あんまり。
このころ対策のひとつとして導入されたのが「みどりのおばさん」だ。ということで、今回の特集はこの「みどりのおばさん」を収集し、鑑賞してみようと思う。
うそです。
おばさんという有機物ではなく、無機物を利用した対策として当時とられたほかの手段が、通学路の設定、スクールゾーン、黄色い腕章・黄色いランドセルのカバー・横断歩道に置かれた黄色い旗などの交通安全グッズ、そして「歩道橋」だ。
自動車と歩行者を立体的に分離しようという都市の装置、歩道橋。そのそっけない造形はまさに都市における無機物作品の代表作と言えるだろう。
冒頭から少々硬い話をしたが、結局はそんな歴史とか思想とかはうっちゃっておいて、ただひたすら歩道橋のその無機物を極めた造形を鑑賞し、愛でていこうと思う。
(text by 大山 顕) |