クーラーが苦手なので、夏はたいてい窓を全開にしている。
部屋の中には蚊取り線香の煙が漂い、時々、窓際の風鈴が「チリンチリーン」と鳴る。…ああ、夏だ。正しい日本の夏の姿だ。
暑いのはイヤだが、風鈴の音は心地よい。 そんな今の時期、川崎大師で「風鈴市」という涼しげな催しが開かれているという話を聞いた。風鈴好きとしては、行かねばなりますまい。
(高瀬 克子)
遅かった
風鈴市は7月20日(水)〜24日(日)の5日間で行われるという。そこで22日の金曜日、仕事終わりに1人、川崎大師へと向かった。
川崎大師といえば「厄除け」で有名だ。私も30代に2度も訪れる女の厄年のたびに、大師さんへ行ってお札をもらってきた。たいして悪いことが起きなかったので、効き目はあったのだと思う。えー、その節はお世話になりました。
そんなわけで川崎大師には何度か来ているのだが、来るたびに疑問に思うことがあった。ダルマの存在だ。ダルマがやたらにフューチャーされているのだ。
いや、ダルマの話はいい。今回は風鈴だ。風鈴市だ。全国47都道府県の風鈴が一堂に勢揃いするという、風鈴の祭典に来たのだ。
「待ってろ、風鈴」とばかりに、足早に参道を歩く。
…が。
ガラーンだ。おかしい。いつもなら人で溢れ返っているはずの参道が、閑散としている。店もシャッターを下ろし始めた。
金曜の夕刻、しかも季節は夏、学生さんは夏休みに入ったばかり。祭りを盛り上げる好条件がこんなに揃っているというのに、どうしたことだろう。
不安を胸に境内へと入る。
なんと、風鈴市は終わっていた。
「え、だって金曜の夜ですよ? 1人だけど、風鈴の音を聞きながらビール飲んで焼きソバを食べるって決めてたのに、え? 終わり? なんで?」
と思いながら、諦めきれずに境内を見回す。あ、立て看板。
6時までですか。そうですか、そういう決まりなんですか。
時計を見ると、時刻はすでに6時10分。夜風に当たりながらのビール計画がパアだ。時間を確認して来なかった自分が悪いのだが、どうにも気持ちが収まらない。
あまりに悔しかったので、翌日の土曜日、出直すことにした。今度こそ「待ってろ、風鈴」だ。
そして運命の土曜日。そう、東京で13年ぶりにあった大きな地震の、あの日である。