……皆さんは、生まれてから今までに、音楽で食っていこうと思ったことが、一瞬たりとでも、ありますか?
小学生女子は「アイドル歌手になって、キラキラした服を着たい!」と妄想し、中学生男子は「バンドやって、モテまくりたい!」と妄想する。これはやっぱり、誰にでもある経験なんじゃないかなあ、と想像します。
もっと大人になって、20歳前後まで音楽を続けてしまうと、「ああ、ライブがやれたらな」「CDが出せたらな」なんて、現実的な妄想にスライドしていくわけなんですが。
私もそうでした。楽器も下手だし、歌もうまくなかったけれど、若い頃、何かしなきゃ何かしなきゃと焦って、とにかく爆音を、出してみていた時期があります。
音楽が好きでした。他にはけ口が無かった。いつもスキあらばヘッドフォンをして、フルボリュームで何かを聴いていました。そうしていないと、キモが弱っちいので、いろんなことに耐えられなかったのです。
でも、ちょっとでも音楽を真剣に聴くようになると、自分で音楽を作るなんてこと、途方もない無茶だと、気がついてしまいます。
それでも諦められず、いろんな人と会って話をして、一緒に音を出してみて、というのを繰り返していました。
でも、うまくいきませんでした。何も作ることが出来ませんでした。
……自分よりあきらかに、あからさまに才能のある「男の子」に、君の声はちょっと変わってるから、ボーカルをやってくれないか、上手くはないけれど絶対に面白いから、魅力的だから、と言われたことがあります。
でも、私は私の声が嫌いでした。「カワイイ」と言われることがあっても、商品的価値を持たせることは、不可能だと考えていました。
そして大問題だったのは、自分のルックス。「歌姫」になるには、あまりにも遠い物件だ、と思い込んでいたのです。
今は自分のことを「まあ美人じゃないけど、結構好いてくれるマニアはいるんじゃないのかな〜」くらいに考えられるようになりましたが、当時は、自分が最悪の、最下層のブスだと認識していました。バキバキの醜形恐怖でした。
そんな女の子が歌を歌ったって、価値がない。あるわけがない。
キモい。
カヒミ・カリィみたいにはなれないよ。
そう思って、私は、もしかしたら唯一、音楽とかかわれるかもしれなかったチャンスを蹴って、音楽をやっている人たちから、ざーっと遠ざかっていきました。
そのあと私は、たまたまカルチャー雑誌の編集者になり、「音楽をやることに成功した人」に、話をきく側になってしまいました。
でも、何をきいたらいいのやら、正直分かりませんでした。
だって、「音」は「文字」に直せない。音は音でしかなく、耳で聴く以外の方法はないのです。
「音楽をやること」に加え、「音楽をやってる人から、話をきくこと」にも挫折したのです。ダブル挫折。
だから、この「ニフティデイリーポータルZ」でも、音楽と関わりのない記事を、たくさん書いてきました。
ごはんを青くして炊き、ドングリを拾って食べ、シラスの中から小さいタコを探して、道ばたにダイインしました。
それはそれで、私にとっては「音楽をフルボリュームで聴く」のと同じような体験のつもりだったのですが……。
だから、このサイトでバーチャル企画バンド、「クラムチャウダー・シベリア・アタック」が始動してしまったとき、正直に言うと、恐怖と不安でいっぱいでした。
冗談だよ、シャレだよ、と自分に言いきかせながら、全力を注がずにはいられませんでした。
たまたま起こってしまった、事故のようなユニットですけれども、私の歌を、人数にしたら……東京ドームを埋めるくらいの人が、聴いてしまっている、という、さっぱりわけわからん事実。
今はもう、音楽で食っていこうなんて夢にも思っていないから、冷静にそれを、不思議な不思議な気持ちで、見ているわけなのですけれども。
そして「アーティストってこんな気持ちなのかなあ」と想像してみたり、したわけなんですけれども。
……で、いきなりですが、話は1ケ月半前に戻ります。それは@ニフティBBフェスタ、企画会議の時。
webマスター林さんが私に目を合わせず、そっと紙資料を渡してきたのです。
「……なんすか、これ?」
「え? CDの資料ですよ」
「CD?」
「大塚さんの企画バンドって、未発表音源とかないんですか? なんかテキトーに入れて、フェスタで配りましょうよ」
「テキトーって……未発表曲なんてないですよ、そもそも3曲しかないし」
「レアトラックとか」
「私がマックの前で、マックの内蔵マイクに向かって、しょぼ〜く仮歌歌ってるやつとか……しかないです……っていうかそんなもん人に聴かせられません!」
「んー、とにかく何かやってください」
?「あー、じゃあ僕書きますよ、曲」
その話を知人のアーティスト、テトラプルトラップFこと川島蹴太氏にぽろっとしたところ、彼はかるーく、そう言ったのです。
「いや、でもさ……君はもう既に、活躍してて、評価されてるアーティストなわけじゃないですか、CDも何枚も出してるしさ、オリコンにも入ってるしさ……」
「CDは出てるけどさ。俺、アーティストじゃないよ」
「えー、アーティストでしょ?」
「いや、うーん………じゃ、それで」
「……テトラFさんがやってるような種類の音楽は、私が一番好きなジャンルだし、曲、書いてもらえるなら嬉しいけどさ……君の素敵な経歴にキズがつくよ?」
「(無視して)ユー、歌、好きなんでしょ?」
「………(ユ、ユー?)」
「大丈夫、歌えるよ。ウィスパリングボイスで。カヒミ・カリィになっちゃいなよ!」
「………」
「歌っちゃいなよ!」
8歳年下、25歳現役ミュージシャンのキラキラした若者に背中を押されて、話はガンガンと進み、曲作り、歌詞作り、レコーディング、レーベルデザイン、プレス、と綱渡りのようなスケジュールをこなし、『BBフェスタ』会場に、CDがどーんと入ったダンボール箱が届けられたのでした。
なんだこれ。まじかよ。 |