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はっけんの水曜日
 
カヒミ・カリィになりたかった

女の子と男の子と、元・女の子と元・男の子のみなさん、こんにちわ。
33歳の元・女の子、中古オリーブ少女のライター大塚です。

皆さんは、生まれてから今までに、音楽で食っていこうと思ったことが、一瞬たりとでも、ありますか?

(text by 大塚 幸代

当サイトのバーチャル企画バンド「クラムチャウダー・シベリア・アタック」の別ユニットの音源を発表します。まずは聴いてください。

インスタント・ワールズエンド/クラムチャウダー・テトラプル・ジャック

 

……皆さんは、生まれてから今までに、音楽で食っていこうと思ったことが、一瞬たりとでも、ありますか?

小学生女子は「アイドル歌手になって、キラキラした服を着たい!」と妄想し、中学生男子は「バンドやって、モテまくりたい!」と妄想する。これはやっぱり、誰にでもある経験なんじゃないかなあ、と想像します。

もっと大人になって、20歳前後まで音楽を続けてしまうと、「ああ、ライブがやれたらな」「CDが出せたらな」なんて、現実的な妄想にスライドしていくわけなんですが。

私もそうでした。楽器も下手だし、歌もうまくなかったけれど、若い頃、何かしなきゃ何かしなきゃと焦って、とにかく爆音を、出してみていた時期があります。

音楽が好きでした。他にはけ口が無かった。いつもスキあらばヘッドフォンをして、フルボリュームで何かを聴いていました。そうしていないと、キモが弱っちいので、いろんなことに耐えられなかったのです。

でも、ちょっとでも音楽を真剣に聴くようになると、自分で音楽を作るなんてこと、途方もない無茶だと、気がついてしまいます。

それでも諦められず、いろんな人と会って話をして、一緒に音を出してみて、というのを繰り返していました。
でも、うまくいきませんでした。何も作ることが出来ませんでした。

……自分よりあきらかに、あからさまに才能のある「男の子」に、君の声はちょっと変わってるから、ボーカルをやってくれないか、上手くはないけれど絶対に面白いから、魅力的だから、と言われたことがあります。

でも、私は私の声が嫌いでした。「カワイイ」と言われることがあっても、商品的価値を持たせることは、不可能だと考えていました。
そして大問題だったのは、自分のルックス。「歌姫」になるには、あまりにも遠い物件だ、と思い込んでいたのです。
今は自分のことを「まあ美人じゃないけど、結構好いてくれるマニアはいるんじゃないのかな〜」くらいに考えられるようになりましたが、当時は、自分が最悪の、最下層のブスだと認識していました。バキバキの醜形恐怖でした。

そんな女の子が歌を歌ったって、価値がない。あるわけがない。
キモい。
カヒミ・カリィみたいにはなれないよ。

そう思って、私は、もしかしたら唯一、音楽とかかわれるかもしれなかったチャンスを蹴って、音楽をやっている人たちから、ざーっと遠ざかっていきました。

そのあと私は、たまたまカルチャー雑誌の編集者になり、「音楽をやることに成功した人」に、話をきく側になってしまいました。

でも、何をきいたらいいのやら、正直分かりませんでした。
だって、「音」は「文字」に直せない。音は音でしかなく、耳で聴く以外の方法はないのです。

「音楽をやること」に加え、「音楽をやってる人から、話をきくこと」にも挫折したのです。ダブル挫折。

だから、この「ニフティデイリーポータルZ」でも、音楽と関わりのない記事を、たくさん書いてきました。
ごはんを青くして炊きドングリを拾って食べシラスの中から小さいタコを探して道ばたにダイインしました。
それはそれで、私にとっては「音楽をフルボリュームで聴く」のと同じような体験のつもりだったのですが……。

だから、このサイトでバーチャル企画バンド、「クラムチャウダー・シベリア・アタック」が始動してしまったとき、正直に言うと、恐怖と不安でいっぱいでした。

冗談だよ、シャレだよ、と自分に言いきかせながら、全力を注がずにはいられませんでした。

たまたま起こってしまった、事故のようなユニットですけれども、私の歌を、人数にしたら……東京ドームを埋めるくらいの人が、聴いてしまっている、という、さっぱりわけわからん事実。

今はもう、音楽で食っていこうなんて夢にも思っていないから、冷静にそれを、不思議な不思議な気持ちで、見ているわけなのですけれども。
そして「アーティストってこんな気持ちなのかなあ」と想像してみたり、したわけなんですけれども。

……で、いきなりですが、話は1ケ月半前に戻ります。それは@ニフティBBフェスタ、企画会議の時。
webマスター林さんが私に目を合わせず、そっと紙資料を渡してきたのです。

「……なんすか、これ?」
「え? CDの資料ですよ」
「CD?」
「大塚さんの企画バンドって、未発表音源とかないんですか? なんかテキトーに入れて、フェスタで配りましょうよ」
「テキトーって……未発表曲なんてないですよ、そもそも3曲しかないし」
「レアトラックとか」
「私がマックの前で、マックの内蔵マイクに向かって、しょぼ〜く仮歌歌ってるやつとか……しかないです……っていうかそんなもん人に聴かせられません!」
「んー、とにかく何かやってください」

?「あー、じゃあ僕書きますよ、曲」
その話を知人のアーティスト、テトラプルトラップFこと川島蹴太氏にぽろっとしたところ、彼はかるーく、そう言ったのです。
「いや、でもさ……君はもう既に、活躍してて、評価されてるアーティストなわけじゃないですか、CDも何枚も出してるしさ、オリコンにも入ってるしさ……」
「CDは出てるけどさ。俺、アーティストじゃないよ」
「えー、アーティストでしょ?」
「いや、うーん………じゃ、それで」
「……テトラFさんがやってるような種類の音楽は、私が一番好きなジャンルだし、曲、書いてもらえるなら嬉しいけどさ……君の素敵な経歴にキズがつくよ?」
「(無視して)ユー、歌、好きなんでしょ?」
「………(ユ、ユー?)」
「大丈夫、歌えるよ。ウィスパリングボイスで。カヒミ・カリィになっちゃいなよ!」
「………」
「歌っちゃいなよ!」

8歳年下、25歳現役ミュージシャンのキラキラした若者に背中を押されて、話はガンガンと進み、曲作り、歌詞作り、レコーディング、レーベルデザイン、プレス、と綱渡りのようなスケジュールをこなし、『BBフェスタ』会場に、CDがどーんと入ったダンボール箱が届けられたのでした。

なんだこれ。まじかよ。


こんなん出来ました。盤面デザインは、デイリーライターの宮崎晋平くん。彼はデザインも出来るのです。

シースルーディスク仕様。世界初の技術らしいぞ。光源に当てると透けてるのがよくわかります。
@ニフティBBフェスタ、大阪、名古屋でも配付予定なので、お近くの方は行って貰ってくださいね!

……BBフェスタは大盛況。物販ブースには、デイリーポータル各ライターの単行本の新刊が、誇らし気に並んでおりました。
私は書籍が出せていません。羨ましいなあ、と思いながら、「ちょっと待て、なんで私は本じゃなくてCDを先に出してるんだ?」と考えたら、落ち込む前に、笑いが込み上げてきてしまいました。

アホだ。
そして音楽をフルボリュームで聴いてるときみたいに、楽しいや。

「余ったらどうしよう」と心配していたのに、東京配付分のCDは、あっというまに品切れとなりました。

お祭りの中で、私は、何か胸にあった小さなシコリが、溶けてなくなっていくのを感じていました。

前置き長くなりましたが、もう一度、音源にリンクはります。
よかったら聴いてください


「インスタント・ワールズエンド/クラムチャウダー・テトラプル・ジャック」


作詞・作曲:tetrapletrap-F
編曲:クラムチャウダー・テトラプル・ジャック
演奏:tetrapletrap-F and the Small Circle of F

戸惑いかけてた 出来すぎたメロディー
シナリオ通りに きみが唇とがらしたから

ほんとは僕だって 何も知らないけど
このままどこかへ 目が覚める前につれてって

恋におちてゆく二人
空回り続けてく二人
裸足の天使

このままもうちょっと きみとちょっと
今はもっと ここでもっと
いつもの唇のもつれたトークで
「●%□※◎$♂▼☆♀?」
きみの笑顔にただそっと口ずさむ
「(恋を恋と呼ぶのはなぜ?)」

木漏れ日通りの 歌につつまれたら
都会の窓から 真夏のかけらこぼれだす

ほらね
そっとマバタキして
トキメキを数えたりして
秘密のメモリー

気まぐれに 今日も笑い合って
すれ違って ぎこちなくて
色づく街並みに浮き出す影が
青く迫まる夏の夜空に飲み込まれてしまうまで
涙を隠してたのはなぜ?

マニュアルに沿って嘘をついて
食い違って 取り乱して
「いつもの唇のもつれが…」なんてさ
ひとり描くずるい景色を振り切ってしまえたら!
はじめからそう気づいてたのさ 記憶の片隅で

このままもうちょっと語り合って
今はもっとわかり合って
引きつけ引きよせられてゆく引力!
もしかしたら これで僕らはもうずっと近づける?
変わりだした夢の答!

 

■突然ですが告知
この曲「インスタント・ワールズエンド」のクロスレビュー大会やります! 400文字きっかりで、この曲を批評してください。もちろんプロアマは問いません。酷評でもベタ誉めでもかまいません。掲載する際のペンネームと、ブログ等をお持ちでそれをリンクしたい方はURLを書きそえ、 >こちら< までお送りください。締めきり/7月18日(月)正午まで。

>>私個人のサイトで、プロダクション・ノートを公開しています。参考資料としてご覧下さい

 

で。
せっかくなのでコレ持って、営業とか行ってみたいなあ……とか思っていたところに、クラムチャウダー・シベリア・アタックを地上派初オンエアしてくださった、FMなはのスタッフ・ぴらつかさんから、「かけますから、CD送ってください〜」とのメールが。
……そりゃ、じかに持って行くしかない! というわけで、行ってしまったのです!!

 

ここで配布しているMP3ファイルは、クリエイティブ・コモンズのライセンスに基づきます。原著作者の著作権は保持します。非営利の場合、原著作者のクレジットの明示された頒布、放送、引用、複製等は、自由に行うことができます。
……簡単に言うとですね、この音源は無料ですが著作権は放棄しないということと、リミックスとかしてもいいけど、それを商売にしたりしちゃダメ(無料で配るなら良い)ということです。あとwebラジオとかでもお好きにかけてください、かけてくださるならば! はい。

助言感謝:津田大介さん(音楽配信メモ)

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。

 

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