その日、私は中央線沿線ぞいに住む、友人・R子のアパートでビールを飲んでいた。
「この新製品の『ラッテスタウト』、なんか中途半端な味だねえ」とか、「『冬ソナ』のパク・ヨンハ、ドラマ内ではそうでもなかったけど、歌番組に出てるの見たら、めちゃくちゃ可愛いじゃん!」とか、「ウチの朝顔、種から育てたのにツボミがいっこも付いてないくってツルばっかのびてんの、オモトかっつーの、咲かずに枯れたらまるで私の人生みたいだっつーの!」とか、どうでもいい話をダラダラしていた。
テレビをつけていたら、アニメ映画『となりのトトロ』がはじまった。
「あっこれ、親戚の子供とかがさあ、繰り返し繰り返し、見るんだよねえ」
「何がツボにハマるんだろうねえ。……そういえばコレ、公開したときは『火垂るの墓』が同時上映だったらしいよ」
「まじで?」
「『トトロ』でニコニコだった子供たちが、泣きさけんじゃって大変だったらしいよ。
……そういえばさ、この森のモデルってさ、埼玉の森なんでしょ? 『トトロの森』って名前付けたとたん、自然保護の寄付金が、どーんと集まったとかいう…」
「うん。うちの実家のほうだよ」
「……え?」
「狭山丘陵だからね。うちの実家のほう、っていうか実家の裏。チャリで10分くらい」
「どんなとこなの?」
「……行ったこと、ないなあ」
「なんで!?」
「いやあ、機会なかったし……。行ってみる?」
「行きたい!」
私たちは日をあらためて、『トトロの森』に行くことにした。
(text by 大塚幸代)
|