道端や街の片隅で見かけるすさんだ建物・ほっ立て小屋。ただそこにある不毛なだけの建物なのに気になってしまうのはなぜだろう。
「ほっ立て」という響きだけで、もうぐっとくる。
『大辞林 第二版』でほっ立て小屋をひくと「柱を直接土中に埋めて建てた、急造の粗末な建物」とある。辞書でもきっぱりと「粗末な建物」と定義付けられるかなしみがそこにある。
地図に載っているわけでもないほっ立て小屋との出会いはまさに一期一会。きょろきょろしながらそこかしこを巡ってみた。
(text by 法師丸)
ほっ立て小屋の辞書的な定義は先に書いたとおりだが、実際のほっ立て小屋を前にしたとき湧き上がってくる独特の雰囲気は、その定義を超えたところにある。ここでは純粋な語義にはこだわらず、たたずまい重視でさまざまな実例を見ていきたい。
●まずは基本をおさえよう
ほっ立て度 :良好 小屋度 :良好
ほっ立て小屋を考えるに当たり、まずは「これぞほっ立て」という基本物件を押さえておこう。左の写真、実にベーシックなほっ立て感である。 適度に放っておかれ、ちょうどよい具合に朽ちた感じ。「あの建物は何?」と問われたならば、多くの人がほっ立て小屋と答えるであろう王道らしさ。ただ小屋と呼ぶだけでは済まされないたたずまいがそこにある。
●ほっ立て感先行型
ほっ立て度 :良好 小屋度 :劣
右の写真、ほっ立っているというのはよくわかる。しかし建築物として小屋と言うには厳しいものがある。はっきり言ってしまえば、建築物という概念がすでになじまない。 ただぼろいだけではないほっ立て感があるだけに惜しい物件。小屋にこだわらず、少ないスペースでほっ立て感をかもし出しているという点は買いたいと思う。
●まるでほっ立ってない
ほっ立て度 :なし 小屋度 :わずか
ほっ立て小屋とは何かを考えるとき、ほっ立っていない例を見つめることも大切だ。それが鏡となり、ほっ立て小屋の本質を逆から照らし出す。そうした物件としてたまたま見かけたモデルハウスを挙げておこう。 あくまで立派、ほっ立て感は皆無と言っていい。家であることでかすかに小屋感はあるが、余裕のたたずまいには付け入る隙がない。
●ほっ立て小屋の大いなる対極
ほっ立て度 :なし 小屋度 :なし
高層ビル群である。綿密に設計されたソリッドなデザイン。多くの人々が仕事にいそしむビルは、経済活動の拠点として勝ち誇っているようにも見える。 たたずまいとしてもまるでほっ立っていないし、ましてや小屋でもない。同じ建築物でもこうも違うものかと改めて感じ入らざるを得ない。ほっ立て小屋にはない全てがここにある。