成田からサイパン島へ
「一緒にサイパンに行きませんか?」
スタッフの前田君から誘われた。
10月に休みを取って彼女とサイパンに行く予定だと聞いていたので、思わず
「えっ?彼女と行くんじゃなかったの?」
と聞いてしまった。
「いやあ、色々と……」
気まずそうな前田君の様子を見て全てを察した。
彼とは今の様に一緒に仕事をする前からの付き合いだ。10年近く彼を見てきているから分る。
「キャンセル料、もったいないですしね」
そうだ、そうだ。せっかくの機会だから、一緒に行こう。
10月某日、僕たち2人はサイパン島に飛んだ。
行きの飛行機、エコノミーの席が満席でビジネスシートに繰り上げになった。
前田「いやあ、ツイてますよ。さい先いいなあ」
前日、円がここ数カ月での最高値を記録した事も2人の旅を後押ししている様に思えた。
サイパンまでは片道3時間、午前10時のフライトなので午後1時(現地時間午後2時)には到着する予定だ。
その短いフライトの間、畳み掛けるような機内サービスが待っていた。
まずは飲み物から始まり、機内食→コーヒー→お茶→アイス→スープ(アイスの後に?)→おかわり→食器を下げて→免税品。
普段の生活だったら、午前10時から3時間のうちにこれだけのものを飲んだり食べたりしない。せっかくのサービスなので全て受けないと勿体無い気がして、入れ替わり立ち替わりやって来るスチュワーデスの対応に追われ忙しい。
前田君は既にワインを2本空けて眠ってしまっている。
僕も寝よう、と思っていたらスチュワーデスからビンゴカードを渡された。
「これからビンゴ大会がありまーす。ヘッドフォンで音声を聞きながら楽しんでくださーい!」
フライト時間の短いサイパンへの旅行は、小さな子供を連れたお客が多い。子供たちを飽きさせないために色々と趣向を凝らしているのだ。
前方のスクリーンにビンゴゲームの画面が写り、陽気なリズムに合わせて数字が回る。
「16」
決定した数字を読み上げる声がヘッドフォン越しに聞こえる。
「ああー」
前田君は眠ってしまっているので、1人でスクリーン上の数字を見て地味に一喜一憂。次々と数字が発表されていき、ビンゴ!な人がチラホラ現われる。ビンゴになったら手を上げるとスチュワーデスが確認にやって来て、記念品をくれる。
周囲でビンゴになったのは全員大人で、子供や子供連れの家族からはビンゴが出ない。
子供に回る様に当りのカード配ればいいのに。
そんな事を考えながら、僕のカードはダブルリーチ止まりだった。
そして、あっという間の3時間。
飛行機は高度を下げて着陸体制に入る。窓の外には真っ青な海の上にポッカリと浮かぶサイパン島が見えた。
「タクちゃん(前田君の愛称です)、サイパンが見えるよ」
「おおー」
目を覚ましていた前田君は一心不乱にデジカメのシャッターを押していた。
離着陸時のデジタル機器使用は禁止である。
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