上野まで
上野までの京浜東北線、となりの女性が語呂合わせの暗記本を読んでいた。ちらちら覗くと内容がへんだ。
「言語領域の優先順位は」
「麻酔の作用は」
看護か薬学だろうか。しかし憶えかたは大化の改新ムシゴロシみたいなものだった。僕が入院して看護婦さんが点滴準備するときに「えーと、ムシゴロシ…」
とか言っていたらすこし怖い。いや、それがきっかけで仲良くなれるだろうか。
猫みたいにうどんを食べる人
上野でいきなりおなかすいたのでうどん屋に入る。となりの男性が「もふっ、ふも、ふう」と声を出しながら食べていた。
実家で飼っていた猫も刺身をあげると声を出しながら食べていた。
うどんがおいしいのだろうか。
僕がちらっと見たら声を出すのをやめてしまった。悪いことをした。
東北線に乗る。朝の時間のせいかごはんを食べている人が多い。おにぎりを食べながらペットボトルのお茶を飲んでいる。ごはんを食べ終わるといっせいに携帯を取り出して画面を見ていた。
野木から乗ってきた女の子がまた字語呂合わせの受験勉強の本を読んでいる。今度は古文だ。
あっしが悪い(あっし=わるい))
あてだっせ、身分が高いのは(あて=身分が高い)
朝、むっつりすけべに(不明)
受験勉強なんてなんの役にも立たない、なんて言うけど、この憶え方は役に立つことを放棄しているようだ。だって、むっつりすけべだもん。10代の女子がわざわざ電車のなかでおぼえるようなことではないと思う。むっつりすけべ(すこし嬉しい)。
宇都宮、テンション高い駅弁売り
宇都宮、駅弁売りがホームを歩いていた。
「お客様は神様です!」
大きな声をだして車内に片足を入れる。でもそれ以上は入らない。
販売員のあいだで車内に入らないという取り決めがあるんだろう。片足だけ、というのはあの人のマイルールのような気がする。テンションが高いわりには車内の反応はにぶかった。
黒磯で郡山行きに乗り換え。
ボタンを押さないとドアがひらかない電車になった。取り付かれたようにボタンを押しているこどもいがいた。
少年よ、ボタンは乳首のメタファーだぜ。
田んぼなど平らだった車窓がでこぼこの山にの景色になってきた。
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