「いきますよ。」
力を抜くように2度3度両肩を上下させた後、Kさんは表情を険しくした。集中しているのだ。店内の空気がピンと張り詰める。互いに無言のまま10秒くらい経過しただろうか。
「きました。」
Kさんの表情が緩んだ。と同時に差し出された腕には確かにみっしりと鳥肌が立っていた。どこからどう見ても立派な鳥肌だ。本当にKさんは鳥肌を自由に立てることができるのだ。
そもそも鳥肌とは何か
辞書にはこう書かれている。
鳥肌は皮膚が鳥の毛をむしり取った後の肌のようにぶつぶつになる現象で、強い冷刺激、または恐怖などによって立毛筋が反射的に収縮することによる。
人は寒い時には立毛筋を収縮させて毛を逆立て、自身の保温を試みる。また恐怖を感じた時には敵を威嚇するために毛を逆立てる。どちらも本能的に我々の体にプログラムされた機能なのだが、進化の過程で体毛の薄くなった人類にはその名残として鳥肌が現れるのだ。
しかし自由に鳥肌を立てられるKさんは毛を逆立てることもできるという。やってもらった。 |