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コネタ


コネタ835

 
川崎大師で厄はよけれたのか。(骨折リポート付き)
関東三大師のひとつ、川崎大師

腰が痛い。椅子から立ち上がるだけで雷に打たれたような痛みが突き刺さる。

どうやら骨折してしまったようだ。

そういえばここのところついてない事ばかりだ。

厄除けしよう。川崎大師に厄除けしてもらいに行ってきました。はたして厄はおちたのか。

梅田カズヒコ

雨の日の夜のアパートの階段。“スケートごっこ”ができるほどすべる。

アパートの階段に気をつけろ

「骨折したみたいなんです」

と、人に話すとスポーツ? 交通事故? などと聞かれるんですが、僕が骨折した理由は「アパートの階段から転げ落ち、階段で腰を強打した」という何とも情けないものだ。

うちのアパートの階段は雨が降るとめちゃくちゃ滑る。はっきり言って建築ミスだと思う。僕は一週間ほど前の夜中、この階段で思いっきり滑って転んだ。

 

レントゲンを眺める。

拡大図。円で囲った中心の部分の骨が上下にずれているようにみえますか。これが脊椎破裂らしい。

赤い矢印が骨が折れていると思われている場所。

 

心象風景。その日の帰り道に撮影。

 

医師に支給されたコルセット。

はっきりしない医師。

夜中に腰を強打した僕は「うー、うー」とうなりながら夜を越し、翌日近所の小さな整形外科を訪ねた。

医師は初老の男性で、横に居た看護婦は雰囲気からしてどうやら奥さんのようだ。レントゲン写真を眺める3人。
医師がおもむろに口を開く。

「あなたの腰はねー、ひどいね」
「……ひ、ひどいですか?」
詳しく状況を説明してくれるかと思うといきなりひどいと言われてしまう。

「あなた、これまで病院とか行った事ないでしょう?」
「あ、まあそうですけど……」
最悪の状況がよぎる。入院? 手術?

「まずね、これは今回のけがとは関係ないと思うけどあなたは生まれつき腰が悪くて、脊椎破裂っていう状況なのよ」
「セキツイハレツ? ナンデスカソレ?」
「名前だけ聞くと恐ろしい気がするけど日常生活には支障がないから。ただ疲れやすいってぐらい」
「破裂……ですか?」
「そう、脊椎破裂」

「それからね、どうもここがおかしいんですよ。折れてるんじゃないかな。(左の写真の赤い矢印)ほら、亀裂が見えるだろ?」

言われてみると確かにその部分に黒い亀裂が見える。正常に写っている骨(青い矢印)と比べるとわかりやすい。

「あー、こりゃざっくり折れちゃってるねー」
「ざっくり……ですか」
人の骨を美容院で散髪するみたいに言わないでほしい。前髪はざっくり切ってください、みたいな。

「今日はどうやってここまで来たの?」
「いや、歩いてですけど」
「歩けた? 普通ここまで折れてたら歩けないんだけどねー、背中向けて。ここ、痛い?」
鈍い痛みが背中に走る。
「痛いです」

「ま、ひょっとしたらたまたまレントゲン撮影で影が入ったのかもしれないから、まだ折れてるかどうかは断定できないね。たぶん折れちゃってるけど」
すると先ほどまでだまっていた看護婦(奥さん)が口を出した。
看護婦「いやあなた、これは間違いなく折れてるわよ」
医師「でもここまで歩いてきたって言うし、本人はわりとけろっとしてるから」
看護婦「だってこんなはっきり影が入る事なんてないわよ」
医師「うーん、確かになー」
僕「あ、あのー……」
医師「なんですか?」
僕「僕、折れてるんですかね、どっちなんですか?」
医師「まあ今のところは折れてても折れてなくても痛みがひくまでは治療ができないからとりあえず安静にしていましょう。お宅、お仕事は何?」
僕「ライターです。雑誌とかの」
医師「ああ、じゃあ働いても大丈夫だよ。腰が痛くなったら休憩を取るんだよ」
と、そこへ看護婦(奥さん)口を挟む
看護婦「だめよ、こんな状態で仕事なんて」
医師「そうかなー」
看護婦「(僕に向かって)働いちゃだめよ。安静にしてないと」
医師「(僕に向かって)いや別に構わないですよ。働いても」
僕「あのー、どっちなんですか? 働いても構わないんですか? 働いちゃダメなんですか?」

医師「まあ、あなたに任せます。一週間後ぐらいにまた来てくださいね。それから今後の治療を考えましょう」
任せますって、ずいぶんだなー。その後コルセットと湿布薬を支給された僕は肉体的にも精神的にも老け込んで帰ってきた。医師とその奥さんは患者(つまり僕)のレントゲン写真の撮影の仕方について口論になっていた。

 

そうだ、厄払いをしてもらおう。

そういえばここのところついてない。買ったばかりのカメラが壊れたり自転車が盗まれたり。数をあげればきりがないが今年に入ってから数々の小さな不幸が僕を襲ってきた。そこへ来て今回の骨折騒動である。これは何かあるのかも。

ちなみに僕は昭和56年生まれで、今年は前厄の年だ。来年の本厄へ向けて厄が加速度的に僕に近づいているのではないか。骨折以上の不幸を想像し怖くなった僕は神の力にすがるべく、厄除け大師として名高い川崎大師に向かう事にした。

 

川崎大師の仲見世。雨の日はまた違った風情が楽しめてよいです。

川崎、曇天、小雨が降り注ぐ。

川崎大師の駅前に降りると曇り空だった。仲見世に到着する頃にはすっかり雨が降り出した。気温が下がるとよけいに痛む腰。これは厄に違いない。もう全部自分に都合のわるい事は厄で済ましてしまっている。厄払いさえすればきっと雨もあがるはずだ。

さっそく厄払いを行う。
厄払い(お護摩というらしい)は3,000円から30,000円まで5つのコースがあった。とりあえず一番控えめな3,000円コースをお願いする。
厄払いは1時間ごとに行われているので予約などする事なくわりと気軽に受けられます。良心的。


値段によってもらえるお札が変わってくる。
お堂に集まる厄払い祈願の人々。厳かな雰囲気だ。

 

いつになく真剣にお払いを受ける。

いつになく真剣にお経を聴く。

お堂の中は静まりかえっていた。しかし決して重苦しいわけではなく、高い天井が外に居る時より不思議と開放感を生んで心地よかった。

そこへ袈裟を着た7,8人の僧侶がやってくる。一礼したあとお経が読み上げられる。こっちは厄を落としてもらおうと必死だ。いつになく真剣にお経を聞く。僧侶がいっせいにお経を読み上げる。なんだかヒーリングミュージックを聴いているような感覚だ。昔の人はお経を今で言うライブかコンサートのように楽しんでいたのではないか、形式にとらわれる事なく自由に信仰していたのでは、と勝手に推測する。

儀式が終わった後僕らはお堂の内部にある観音様が居る間に迎え入れられた。別に誰かに注意されたわけではないが、さすがに内部は写真に撮っちゃいけない気がした。

 

厄は払えたのか、ちょっと検証してみよう。

20分ほどに渡るお薩摩が終わった。本当に厄ははらえたのか、気になった僕はおみくじを引く事にした。考える事はみんな同じようで、僕のほかにも先ほど一緒にお薩摩を受けた方が何人かおみくじ売り場に群がっていた。

で、おみくじの結果は……



凶。

凶だ。
心なしか雨も先ほどより強くなっている。仏様にお参りに行ったら逆に反感を買ってしまったという事のか。おみくじひとつではそんなに落ち込まないが今回ばかりは落ち込んだ。
とぼとぼと参道を後戻りする。


仕方ない、くずもちでも買って帰ろう。

しかし、事態はハッピーエンドの方向へ。

後日、冒頭の診療所ではなく、別の医師の元を訪ねた。4枚に渡るレントゲン写真を撮ったあげく医師は

「骨折じゃないですよ。見たところ異常はありませんね」

と僕に言った。前に見てもらった医師に骨折してるかもと言われたと話すと

「いや、該当する箇所がわかりやすいように写真を撮りましたが異常はないです。なんだったらその医師に説明してもいいぐらいですが」

といって患部を触る医師。

「おそらく筋肉に傷が付いてるんでしょう。エーテル持ってきて」

と言って腰に注射を打った。痛みが引いた。

「一週間も通ってもらえれば完治しますよ」

という医師。確かに腰を骨折している人間が歩けるはずがない。単なる誤診に過ぎなかったわけなのだが、無事に済んだのも川崎大師のおかげだと思う事にした。

けがには気をつけましょう。


 

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