まずは「もみじ」を予習しよう
小学校の身体測定。
今では様々な諸事情により、体操着や下着を着用するのだろうが、私の時代はちがった。
上半身素っ裸である。
みんな素っ裸で、身長や体重をはかるのを順番に待ちかまえていた。
大人にでもなれば素っ裸といえばやることはたいてい決まっているが、小学生、とくに私の頭の中は「もみじ」しかなかった。
順番を待つ友だちの背中に
「もみじっ!」
と言いながら一発バシッと張り手をキメる瞬間。
真っ赤な手の跡をキレイに残したときには、ドえらい事を成し遂げた達成感があった。
自分がやられないように、背後に細心の注意を払いつつキメる「もみじ」は熟練したワザと勘が必要とされる。
反復横跳び校内一の私に勝てる女子はそう多くはなく、保健室の中で私はクラスイチ迷惑な女子の勲章を得てはよろこんでいたように思う。
いつもは、なよっとした女子も、男子禁制の中では本領を発揮できるのだろう、こちらが気後れするくらいに復讐に燃えるサマはなかなか見応えもある。鼻の穴をふくらましながら見たこともない形相でおそいかかってきた時は、本気で命の危険を感じたものだ。
あの現場を早熟な男子が覗き見をしたとしたら、確実に女性不信に陥ったことだろう。
そんなわけで、身体測定の直後はみんな高揚して、顔も真っ赤だったが背中も真っ赤だった。
夏だろうが真冬だろうが、素っ裸といえども、ちっとも寒くはなかったのである。 |