とんかつが揚がるまで、約30分。
僕らが陣取った席はちょうど油のそば。とんかつを揚げているところが間近に見えるアリーナ席だった。
しかし、とんかつを揚げているにもかかわらず、ジュワーといった音がまるで聞こえない。左の写真の奥の鍋を見てもらっても分かるが、あぶくがまるで立たなくて、見ようによっては何かを茹でているようにも見える。
「ジュワーってならないんですね。油の温度はどのぐらいなんですか?」
と店主に話しかけると
「うん、詳しくはさっきの小冊子を見て」
と返された。その後とんかつ定食ができあがるまでの約30分、店主がヒマそうな時を見計らって、話しかけてみたがご主人の回答は
「詳しくはその小冊子の10ページ目に載っているから」
と返されなかなか会話が発展しない。野暮な質問には答えないようだ。もしくは僕と同じような客がやってきて同じような質問ばかり繰り返すから答えるのが面倒くさいのかもしれない。
全16ページに渡る小冊子から僕なりの解釈でこの不思議な調理法について端的に説明すると
お肉の肉汁が蒸発しないように温度設定をして揚げる事により、うま味を逃がさず、また揚げ物が焦げる事によって油が悪くなる事も防ぐという調理法のようだ。
しかし、お客さんが黙り込むと今度は主人のほうから話しかけてきた。
「うちはのとんかつは外より中のほうが温度が高いんだ」
だから、揚げたてのとんかつも素手でもてるんだ」
と、言葉通り揚げたてのとんかつをつかんでいた。「すごい!」というと、「まだすごくないよ」と返されてしまった。 |