野生の魚は速いよ、はやい
うん、確かに魚影は濃いが、すくえない。
魚影どころか、魚そのものが見えているのに、すくおうとするとひょいと身をひるがえす。
なかなか手ごわい。
手ごわいというか、完全に魚に遊ばれている。
魚のほうが興味を示して、我らが「ラッキースクープ」の紙の上に寄ってくるにもかかわらず、いざすくい上げようとすると、すらり身をかわすのだ。
腹が立つったらない。
完全に夢中だ。
夢中で、写真なんか撮っていられない。
すっかり取材の事なんか忘れて、漁に没頭する。
これは、ハゼ対ボクの闘いである。
勝者がすべてを手にするのだ。
まさに、生きるか死ぬかの真っ向勝負だ。
ラッキースクープを水面に落とす瞬間、この闘いのゴングは鳴らされる。
ハゼが身をひるがえすのが先か、ボクがラッキースクープを持ち上げるのが先か。
いつの間にか集まった、ちびっ子ファンの歓声も、今のボクには聞こえない。
「あー、おじさんもうちょっと早く!」
「わかってるよ、魚が速いんだよ!」
んん、子供がうるさい。大人の邪魔をするな。
ラウンド終了のゴングは、紙が破れるのが合図だ。
すくい上げようとすると、紙は簡単に破れてしまう。一番厚いのにしておいてよかった。
ひるむ事なくもう一度挑戦だ。
なんてったって、100回挑戦できるのだから。
次のラウンドを制するのはどちらか!
と勝負の右手を何度目かに水面にくぐらせたその直後、 ラッキースクープに確かな手応えが!!
「やった!穫った!!」
かれこれ一時間くらいたっただろうか。
子供たちのやんやの喝采のもと、 ついにハゼをモノにした。 |