歯磨き粉を出しながら……。
人間の手はいいかげんで、注意していても一回分の量が多くなったり少なくなったりする。
この日は歯が特別汚れていたんだ。この日はニンニク料理を食べたからちょっと歯磨き粉の量が多いんだ。などと自分の中で理由をつけて無視していく。そもそも量がまちまちなほうがリアルっぽい。
あっという間に20回、30回、と回数が増えていく。部屋が歯磨き粉くさくなってきた。
30回あたりで、シュポッと音がして歯磨きが一瞬出てこなくなった。40回目あたりでは、だんだん強くにぎらないと歯磨き粉が出てこなくなっていく。
新品の歯磨き粉があっという間にやせ細っていく姿を見ると、歯磨き粉の減少という本来は月の満ち欠けのようなゆったりした時の流れを一挙に体験しているわけで、とても説明しづらい感覚だが新鮮な気持ちだ。
なんだかいつもの朝を早送りで未来まで体験しているような不思議な気分。 |