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コネタ


コネタ814
 
ぬりつぶせ青春

図書館でカリカリと。

 私事で恐縮だが、大学の2ヶ月ある長い夏休みも、もう終わる。

 大学1年の夏休みということで、まわりの人たちからは「やばいよ、もう、やばいから!」と予言を頂いていたのですが、まったくそういうこともなく過ぎ去った。

 それはそうと、思えばこの2ヶ月、何も「やり遂げた!」ということがない。このまま何もしなければ、本当に何も無かった夏休みで終わってしまう。

 このままではいけない。

 そこで燃える想いをぶつけて、ノートを1冊真っ黒にしようと思う。

(text by 藤原 浩一

慣用句的表現ではなくて

 よく、ノートに一生懸命書き込んで、ページをぎっしり文面などで埋めることを「ノートを真っ黒にする」と言ったりするが、今回はそうではない。ただただノートを真っ黒にしたい。

 というのも、退屈な授業があると、配られたプリントの裏の真っ白な紙面をボールペンで塗りつぶす、ということをしばしばやっていた。自分の集中力の限界に挑戦、というテーマで。先生からしてみれば、完全に集中力が切れてる生徒だけど。

 その延長で、ノートを一冊真っ黒にしてやれ!と思ったのだ。これには強靭な精神力が必要なので、まずは落ち着いた環境を求めて、僕は近所の図書館へ足を運んだ。


これを真っ黒にします。
目の前に現れた、壁。

 作業に対するモチベーションをあげるために、左のようにタイトルをつけた。

 早速新しく買ったボールペンを使って作業をはじめたいと思う。1冊まるごと俺色(黒)に染めてやるぜ!

 カリカリカリカリ・・・。

 まったく終わる気がしない。まだ初めて30分だが、その間集中し続けて、1ページの4分の1しか埋められていない。早くもくじける僕の心。

 1ページ完成させるのに2時間かかり、全部で60ページあるから、これでは完成するのに120時間かかってしまう。不眠不休で5日。いや、不眠不休なんてどう考えても無理だが。

 

新しい力、筆。

 仕方が無いので一度家に帰って、水彩絵の具を押入れの奥から取り出してきた。中学の以来使っていなかったが、まさかこんなことでまた再会することになるとは。

 早速使ってみたが、すばらしい。


アン

ドゥ

トロワ

 このような感じで1ページを5分ほどでさくっと塗りつぶしてしまう圧倒的な機動性を誇る筆。塗った後に乾くまで少々時間がかかるものの、真っ白な画面もネガティブなフレーズも、どんどん塗りつぶしてくれる筆に、改めて感動する。

 さすが義務教育市場で幅広い顧客と高い知名度を持つ水彩絵の具だ。筆たのもしいよ筆。

 

景色はさわやか、画面は真っ黒。

黒と白 絵の具無くなり 立ちすくむ

場所を変えて、気分を変える

 いくら筆がすばらしいツールだとはいえ、単調な作業の繰り返し故、だんだんこんなことやってて大丈夫なのかという気分になってきた。家にこもってこんなことやってたら、救いようがない。

 そもそも「退屈な授業を過ごすため、プリントを塗りつぶす」作業というのは誰にでもあるような体験なんだろうか、その辺りから間違っている気がする。

 ・・・ダメだ。

 ネガティブな感情を取り払うために、近所にあるボートコースにやってきた。中学のときに、写生大会が行われた場所だ。写生大会。心が開放される音の響きである。

 黙々と作業してると暗い気持ちになりやすい。外に出て、さわやかな気分になったところで再び作業を開始する。

 ところが2時間くらい続けていると、困ったことに絵の具がなくなってしまった。使いかけとはいえ一応チューブ2本は用意してきたのに…どうしよう。

 絵の具はなくなったが、真っ白いままのページはそこに有り続ける。どうすれば、どうすれば、このノートの全部のページを真っ黒にすることが出来るんだ!?

 ・・・そうかっ!


俺は勇気を出して・・・

残りのページを破り捨てる!

できたー。かくして白いページは消えてなくなった。

 

終わってみれば感慨深い。

 そんなこんなでまっくろノート(タイトル「ぼくのなつやすみ2005」)は完成した。かかった時間は集中してやって全部で6時間。よくやった、自分。

 多分、共感とかは完全に得られていないんじゃないかと思うが、僕の心の中にある「やり遂げた感」は本物である。

 そして学校が始まって、クラスメイトに「夏休みどうだった?」と聞かれたら、これを見せて、みんなを黙らせたい。


 

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