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コネタ


コネタ812
 
だいだらさんが通る
巨人の足跡イメージ

神奈川県相模原の鹿沼公園というところで草野球をやる機会がよくある。
そこには巨人伝説がある。巨人の足跡がそこにある鹿沼になった、というもの。公園の看板にそう書いてあった。

調べてみると、意外と多くの地域に「だいだらぼっち」という名を代表とした巨人伝説が存在している。
そういえば、身近に巨人を意識して生活したことがない。
何より、大きいものに触れると何だかわからないけど、テンションが上がってしまう。

なので、巨人を感じに出かけてみることにした。

(text by うえるりゃこと 上村 裕二

『でいらぼっち伝説』

相模原の巨人『でいらぼっち』

まずは、その鹿沼公園へ。

相模原の巨人は『でいらぼっち』と呼ばれている。

伝説によると、富士山を藤づるで運んでいた『でいらぼっち』が一休みして、もう一度持ち上げようと踏ん張った時にできたのが、ここ鹿沼と300メートル東にかつてあった菖蒲沼なのだという。富士山・・・。さすが巨人だけあって随分とスケールがでかい。

公園の池を改めて意識して見ると、確かに足の形をしているのが分かる。そんなことはおかまいなしに、その足跡の中では白鳥や亀、鯉がマイペースに泳いでいた。それにしても、これが足跡だとすると、やはりモノスゴイでかいことになる。


公園に広がる足跡
見るからに足跡っぽい

僕の足、惨敗。
16文キックも通じず。 「ぬうっ。」
(オンマウスでマウスオーバー)
白鳥も巨人を意識。

ただ、このままでは今一つその大きさを感じきれないので、僕の足形と比べてみることにした。
僕の足のサイズが大体26センチ。まあ、成人男性としては平均的な大きさではないかと思う。

見ての通り、比較用に作ってみたはいいものの、まるで勝負にならない。

ならば、巨人の代名詞のあの人で勝負してみよう。
世界の巨人、ジャイアント・馬場。16文キックと言われていたが、実際は16文もなく、32センチだったそうなのでそっちに合わせて足型を作成した。
靴の中で子猫が寝ていたという微笑ましい巨人エピソードを持つぐらいだから期待できるかとも思ったが、所詮は人間レベル。うすうす分かってはいたものの、まるで勝負にならない。『でいらぼっち』恐るべしだ。

ちなみに、公園管理事務所のおじさんによると、もともとはもっとずっと大きかった沼を、公園用に埋め立てて今の池にしたとのこと。そうなるともうとんでもない。きっと、すね毛も鉄パイプぐらいあるのだろう。とても敵わない

また、相模原市にはこの鹿沼、菖蒲沼のほか、大沼、小沼やいくつかの窪地で『でいらぼっち』伝説が伝えられており、ちょっとした巨人タウンとなっている。
ちょっと相模原を見る目が変わってしまった。

普通の池としか見ていなかったものが、大きな足跡だと思った途端に魅力的に思えて、「ここは踵、あそこはつま先、橋が架かっている所が土踏まずだな。うんうん。」と池の周りをぐるぐると廻ってしまった。お父さんの足にじゃれる赤ちゃんのような感じだ。
大きいものの前では人は子供にかえってしまうのかもしれない。

 

晴れなのにビショビショ。

巨人を追って多摩へ。

でいらぼっちにはまるで歯が立たなかったので、さらなる巨人伝説を求めて武蔵村山へ。
ここには、「大多羅法師(だいだらぼっち)の井戸」なるものがあるらしい。井戸ならなんとか勝負になりそうだ。

立川駅からバスに揺られ、武蔵村山市役所へ。そこから歩いて数分。自転車トンネルの先にそれはあるという。
横田自転車トンネルの醸し出す昼間とは思えない負のオーラに怯えつつ、井戸へと向かう。

途中からは親切な地元のおじさんがわざわざ井戸まで案内してくださった。すぐ近くに住んでいても、あまり興味を惹かれる場所ではないらしく、「なんかの井戸」と言う認識しかもっていなかった。どうやら控えめな巨人らしい。


この人が巨人の末裔だったりしたら盛り上がるのになあ。
控えめな巨人の足跡。

小男な巨人と比べる。

到着。
井戸はうっそうとした林とテニスコートに挟まれており、確かに目立つようなものではない感じで、ちょっと拍子抜けの感は否めない。
どうした、巨人。都内に入ったとたんに縮んでしまったのだろうか。
ここの伝説は、大多羅法師が藤づるで丸山を背負い歩いた足跡が井戸になったというもの。枯れることがない湧き水で、古くは飲料水として使われていたらしい。確かに浅い底からはじんわり水が湧いている。それにしても鹿沼といい、巨人はよく山を担いでいたようだ。なぜそんなことするのかよく分からないけど、巨人ってそういう生き物なのだろう。

とにかく、また足跡を比べてみることに。

うーん。完全に負けていることは負けているのだけれど、圧倒的な感じがまるでしない。確かに巨人なんだけど、『でいらぼっち』とはスケールが随分と違って小男なイメージさえ持ってしまう。巨人にも色々いるらしい。

 

こんなところにも巨人は来たのだという。

巨人、都心に現る。

調べてみたら、もっと都心に巨人の足跡伝説を発見した。
場所は東京都世田谷区代田。だいた。そして、巨人は『だいだらぼっち』。
そう、代田という地名の由来は『だいだらぼっち』から来ているというのだ。今までまるで気がつかなかった。

さっそく巨人の町、代田へ。

図書館においてあった「世田谷のおはなし」によると、ある日突然、玉川上水に橋が掛かり(代田橋)、人間の足の形に似た池ができていた。村人たちはそれをダイタラボッチの仕業ということにしたのだという。そして、他の資料によると、現在の代田の西の守山小学校付近のくぼ地、溜池がだいだらぼっちの足跡と言われていたらしい。この情報と想像力を武器に現地に行ってみる。

着いてみたら、情報どおりその付近は前後左右が坂に囲まれたくぼ地になっていた。ただ、完全に住宅街になってしまっており、肝心の溜池がどこだったかがまったく分からない。


坂。坂。坂。
巨人よ、何処へ。

道端の落し物感覚。
(マウスオーバーで足跡の幅。)
巨人のぬくもりを感じる。

困った時は人に聴く。通りすがりのおばあちゃんにそれとなく尋ねてみたら、驚くほどよくご存知で親切に色々教えてくださった。

40年ほど前までこの一帯は山になっていて、その下のくぼ地であるココに川(あんきょ、地下水)が流れていた。その湧き水が池・沼のようになって溜まっていたらしい。今でも地下水はコンクリの下を流れているそうで汲み上げていないと溜まってしまうそうだ。

ちょうど、その湧き水が出て溜まっていたというのがちょうど左の写真のところだった気がするとおばあちゃんは語る。
そして、「『だいだらぼっち』の足跡は、大人が大股で歩いて三十数歩もある大きさ」と『代田のむかし』という本に記されていた。
徐々に巨人の姿をうっすらとだが捉えてきた。
さあ、比べてみるぞ。

写真だけみるとさっぱり分からないものになったが、想像力でなんとか補うしかない。
さらに、この際だからと僕自身でも比べてみたけど、これも道で倒れている人にしか見えなくなってしまった。
ただ、ここに確かに巨人の足跡があったはず。僕は今、巨人の足跡にいるのだ。

残暑の日のコンクリートは熱をもっていて、寝転がると体全体にその熱が伝わってくる。なんだか巨人の足の温もりを肌で感じた気になり、もしかすると僕は今、巨人に踏まれているのかもしれないとも思えて、ちょっと楽しくなってきた。
路上で。

都心の巨人はでっかく温かかった。こういう巨人のあり方もまたありなんじゃないだろうか。

だいだらさんはあちこちにいた。

各地に眠る巨人伝説の一端に触れてきた。
巨大なものの前だと、縮尺のせいか子供感覚になってしまい、ぽかんと口を開けている自分に気づいた。

昔の人も子供感覚を開放するために、各地に巨人伝説を仕立て上げたのかもしれない。現代の特撮ヒーローやロボットアニメのような感覚で。
それに僕は永い時を超えてまんまとハマってしまったわけだ。

これからは道端でくぼ地に出会ったら、巨人の姿を思い浮かべて積極的にぽかんとしていこうと思います。
車には気をつけてね。

だいだらさん。(「世田谷のおはなし『ダイタラボッチ』」より。)
 

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