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コネタ


コネタ784
 
真夏の夜の人間動物園
わくわくしすぎて動悸がした

小学校へあがる春だった。

「動物園が、あるよ」

母の姑息な一言にまんまとのせられて、私は東京へ戻ってきた。
それまでの3年間、島根県のド田舎ですごしていたのだ。
当日になって、東京行きを断固拒否した幼い私が言われたのがこの言葉だ。

「動物園が、あるよ」
「んじゃ行く」

大好きな祖父母や叔父たちや幼なじみより、動物園をあっさりと選んだ自分。
たぶん、とりあえず、と思ったのだろう。

しかし『とりあえず』なんてことはまったくなかった。ぜんぜんとりあえずじゃなかった。
ハメられたと気付いたのは、それから少し、あとだ。

仕方ないので私は、やけくそのように、動物園へ行きまくったし多分今も行きまくっています。

(text by 土屋 遊

寝ていても絵になるパンダはズルい
いくらなんでも無防備すぎる
お行儀のいい寝姿の見本・コカン隠し
ゾウさんまで寝ていた

とはいえ、けして"動物好き"というわけではない。
人間とおなじだ、キライなやつもスキなやつもいて、私はとくにそれがはげしい。

ただ、田舎には、動物園がなかった。
私にとって東京は、遊園地でもオモチャのデパートでもピンクのランドセルでもない、動物園だった。

このあこがれの言葉に「真夏」と「夜」がプラスされる特別イベント
真夏の夜の動物園
が上野動物園で行われるという。幼い日のコーフンがよみがえるのもむりはないだろう。

お盆限定3日間のこの催しは、夕方から夜にかけて、分刻みのダブりスケジュールで構成されている。

[不忍池のコウモリ観察会]
[横から覗くライオンの森]
[爬虫類、夜の特別ふれあいコーナー]
[小獣館ナイトツアー]
[放飼場に入るゾウ!]
など、そのほか盛りだくさん。

タイムスケジュールをみながら、

「ふれあいを30分で終わらせて、不忍池に走って行って……」

などと調整するだけでどっと疲れてしまった。

二兎追うものは一兎も得ず、

『夜・特別・ふれあい』

と、れっきとした大人でも胸が高鳴るような三拍子揃ったスキンシップ。これに的をしぼろう、じっとりねっとりハ虫類を堪能しようではないか、ということになった。

 


友人の伊藤さんも乗り気だった。

彼女から動物園好きだと告白されたことはないが、小学校の時、動物園写生大会での作品は目を見張るものがあった。

丹念に描かれた一頭のオス馬。
明らかに『オス』だとわかるモノがやたらていねいに描写されていた。

『こまかいところまでよく見てかけました』

あとにも先にも、絵を描いて先生におほめの言葉をいただいたのはあの時だけだといつまでたっても自慢している。

そんな、たぶん動物愛好家の友人とともに、行ってきました。


不動の鳥との出会いから、三度目にしてやっと入手したハシビロコウ入場券

『特別ふれあいコーナー』に向かう途中、私たちは目を疑う光景に出会った。

世にもめずらしい動物が……


こちら、ホモ属のサピエンス種
さりげないけど象の柵の中

 

世界初の人間動物園はウエノ・ズーが元祖

今年、海外で公開されたHuman Zoo(人間動物園)をご存知だろうか。檻のなかの人間を観察しようというもの。
ロンドンの動物園で行われたこのスペシャルイベントの狙い、それは

「『流行種』としてのヒトの広がりに焦点を当て、地球上の生態系に占めるヒトの重要性を伝える」。

……よくわからない。

世界初の試みだそうで、いかにも得意げに日本にもそのニュースは流れたものだが、期間は8月26日から28日。

はっきりさせておきたいが、上野動物園の方が2週間も前だ。

しかもあちらは「クマ山」、こちとら「象の放飼場」である。規模の上でも確実に上回っているではないか。

とくに、自然体なヒトの生態が観察できるという点では、ロンドンのそれよりもはるかにウエノズーの方が高得点をあげている。これだけはゆずれない。


・わけのわからない長蛇の列に、とりあえず並んでみる習性
・象のうんこをつかみかけた子に発狂寸前の母の雄叫び
・つがいのくせして、他のメスに視線をうつすオスの本能行動

なかなか感慨深いものがある。


柵の中からの風景

象のうんこはプカプカと浮かぶ
おしっこは水たまりを形成する

夜の・特別な・ふれあい。

私の母に言わせれば、『ハ虫類好きは変人である』と言うことに断固なっている。
変人とまではいかなくても、私自身も、このイベントにすすんで行くような物好きはそう多くはなかろうと思っていたのだ。

ごめんなさい。

いました。ものすごくいました。


ふれあいたい人々
みんなうれしそうだ

開始時刻まであと30分。長蛇の列ができていた。

特別なふれあいを求める人々がこんなに……。

運営サイドは予測していたのだろうか、どこかのテーマパークのように列用の仕切りが用意されていて、最後尾を知らせる看板もある。対応に抜かりがないとみた。

2,30人まとめて説明を受け、順にふれあいスペースに入場する仕組みだ。


かたいウロコは触り放題
お姉さんの股ぐらに顔をうずめるヘビ
ブレスレットにしてもシャレてます
う〜ん、ちょっと疲れたな

5分です。

やたらハ虫類と娘のツーショットを撮りたがるどこかのお母さんとケンカしながらあたふたしているうちに、あっと言う間に5分は過ぎ去った。

ハ虫類とのふれあいで得た感想は、私の肌よりツヤがよく、私の肌よりサラサラで、私の肌より手入れが行き届 いていたということだ。ヌメッとかヌルッとかまったくしていない。

そして彼らは、ギャーギャー言われながら触られてもじっーとしている。首輪なしでも逃げようともしない。

うちの犬にもぜひ見習っていただきたい。


あしかの銅像はふれあい禁止のようだ

定員オーバーの小獣館

夜行性の動物たちがいつも寝ている小獣館は、満員電車のような混雑ぶりだった。

ここでは、やっとの思いでハリネズミやアルマジロとふれあうことができたが、ふれあい、というよりもむしろタッチ、なんとか、かろうじて、かすった程度の、という雰囲気だ。

熱気でむんむんの小獣館

動物には表情がないなどと誰が言ったか。心底うっとうしそうな顔をみせてくれたハリネズミ

 

キリンの好奇心にメロメロの夜

小獣館を出ると、すっかり日が暮れていた。

「ひらめいた。夜の動物園ってロマンチック」

と、伊藤さんは言い出していたが、 キリンに関するレクチャーが受けられるというので足早にキリン舎に向かう。

そこはまた、人間動物園として解放されていた。

柵の中で、飼育係さんを囲んでお話を聞いていた時のことだ。

「あれえ?ボクの庭でみんななにしてんだろ?」

ときょうみ深げに、キリンが首をニョッと伸ばしてこちらの様子をひそかに伺っていたのである。

私たち人間が、観察されている!

カメラを取り出すと、ササーッと隠れてしまった。

そのまましばらく待ちかまえていたら、好奇心旺盛なのだろう、またゆっくりと顔を覗かせる。
シャッターを押したが間に合わず、他の人に見つかって大騒ぎになってしまった。
シャイなキリンさんはもう二度と顔を出してはくれなかったが、あれは本当に愛らしかった。


あまりにもかわいかったので合成で再現してみた。

最後に

なぜ人は、フンに惹かれるのか。道端だとよけるくせして。
と、私たちはキリンのうんこを取り囲みながら話しあった。

その談義が聞こえたかどうかは不明だが、飼育係の人に、きちんと乾燥させたアミメキリンのうんこをお土産にいただいた。

「たべちゃダメ」

と書いてある。


たべません。(実物大)

夜の8時。
動物たちの明日を考えると、この時間が限界だろう。
蛍の光が流れて、私たちは動物園をあとにした。

なんだか名残惜しいなあと門をくぐったのだが、そのすぐあとに二匹の動物が大ゲンカ&大乱闘のショーをおっぱじめてくれた。

伊藤家のご子息たちだ。

このバトルの原因が『キリンのうんこ争奪戦』にあるとは誰も気付くまい。

最後まで、真夏の夜の動物園を満喫することができてよかった。


うんこを中心にして意見交換をする人間の子どもたち

 

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