暑いです。 わざわざ書くとどうしようもなく暑くて申し訳ないですが、暑いです。 もはや亜熱帯の東京、炎天下を取材で歩いてるとたちまちノドはカラッカラ。 水分補給は散歩の基本。 そうだ、水飲み場を探しておこう。
でも町中に自販機が林立する昨今、水飲み場で水、飲んでないような。ていうか水飲み場ってどこにあるんだっけ。
(text by 神田ぱん)
博物館やスーパーの水は冷たい
「水飲み場」でぱっと思い出すのは図書館だ。学校の次によく行っていた場所で学校に似てるけど、図書館には冷水機があって、学校の生ぬるい水とは全然違い、うんとおいしかった。 それで市役所にも公民館にも水飲み場あるのに、「図書館=水飲み場」の印象がいちばん強いのかもしれない。 でも今は学校にも冷水機がある、と高2の三女が言う。えー。うらやましいのう。
近所のスーパー「サミット」や「イトーヨーカドー」には、高速のSAみたいな給水機がある。「水飲み場」にとどまらず「お湯飲み場」や「お茶飲み場」でもある。こんなの、昔はなかったよなー。お客さんへのサービスだろうか。
もちろん水はちゃんと冷たい。 そしてお湯が出るから赤ちゃんにミルクがあげられる、とても便利。
でもやっぱりピューっと水が出る、こんな冷水機の方がより冷たくておいしい気がする。これは東芝のウォータークーラーRWF-D51Pという水道直結式のやつで、1台12万円ぐらいする。
東芝からは「美味活水」と書いて「うまかすい」(……)と読む浄水機能付きのハイエンドモデルも出ているようだ。どこに設置されてんのかなあ。もし「うまかすい」がある博物館やスーパーに出くわしたら、超ラッキーだ。
JRに水飲み場なし
駅のホームって水飲み場あったよな。 と思ってJRに乗ってみるけど、ない。中央線も山手線も、ない。 あれ。前はあったような気がしたけど、撤去したのか? 理由はなんだ。衛生問題かコスト削減かテロ対策か。まさかホームの自販機で「大清水」(ペットボトルの水。JRの自社ブランド)売ってるからとか……まあ、あったかどうかも記憶があいまいなので邪推はよす。
ようやく総武線の水道橋駅と千駄ヶ谷駅で発見。千駄ヶ谷のは水飲み場というより将棋オブジェだ。日本将棋連盟の将棋会館があるからだと思う。プロ棋士が集う駅。プロキシ。プロ棋士、電車乗んないか。
じゃあ水道橋にあるのはなんで。水道橋が、神田上水の重要ジャンクションだったからか。それともスポーツ観戦でのどを枯らした人が多いからか。 でも水、ぬるい。あんまり飲みたくない。 水道橋には「給水所公苑」と「東京都水道歴史館」があるので、寄り道してみた。
水道歴史館にちょっと寄り道
水道歴史館は、東京都水道局のPR施設だ。 東京都ご自慢の「江戸時代からの水道」をテーマに、木樋や井戸の仕組みなどが展示されている。 明治時代の水飲み場もあった。
左の「馬水糟」は明治39年、ロンドン市牛馬給水糟協会から東京市に寄贈されたもの。ライオンの口からじょばじょば水出てるところが牛馬用。その下が犬猫用で、赤みかげの柱の裏が人間用だ。「牛馬給水糟」なんてえらい限定された協会もアレだが、明治時代に犬猫用の水飲み場があったというのにも驚き。
隣接する給水所公苑には、神田上水の石樋が復元されていた。
東京の水道は、天正8年、徳川家康が作らせた小石川上水(のちの神田上水)が起源なのだそう。湿地帯だった江戸の街(日比谷とか銀座は埋め立て地)は、井戸を掘っても海水しか出なくて水道は不可欠だった。400年以上も前から水道があるのは世界でも珍しく、江戸っ子は「水道の水で産湯をつかった」のが自慢だったという。 なんか「水道の水はびんぼうくさい」「地下水の方が高級」と思っていたので、「水道の方が粋」という考えは意外だった。
今、東京や大阪はじめ全国各地で実施されている「高度浄水処理水」プロジェクトにより、水道水のかび臭さやトリハロメタンが減って、味もぐっとおいしくなってるそうだ。 山が多い日本は河川の流れが急だから水も澱まず、きれいでおいしかった。その川をせっせと汚して来たツケを、ようやく払い出した。利息が重くてどうにもならなそうだけど。
●東京都水道歴史館●
文京区本郷2-7-1 03-5802-9040 9時30分〜16時30分 無休 入館無料
都営地下鉄の高級水飲み場
地下鉄の水飲み場は、都営・東京メトロともほとんどが冷水機だ。
特に都営は、いささか疑問に思うほど立派なウォータークーラーを設置している。 左の写真は、駅の高級感ではダントツな都営大江戸線の六本木駅。 大江戸線はどの駅も凝った造りになってて「夢もぐら」の愛称にふさわしい。採用されなかったけど、私の心の中ではいつまでも「夢もぐら」だよ!
そんな「夢もぐら」の水飲み場は、オアシス社のユニバーサルデザインモデルだ。車椅子のまま水が飲めるすぐれもの。 これがまたよく冷えていて清潔。ペットボトルのお茶なんか持ち歩くより、都営の水飲み場の方がだんぜんいい! しかし高そうだなとは思ったが、調べてみたら小売り価格はなんと39万円! 業界ではたいがい6がけというけど、それでも23万円だ。はり込んだね都営。 ほかに都営新宿線もチェックしてみたが、おおむねオアシスだった。
ところが、夢もぐら六本木駅を出て東京メトロ六本木駅に行ってみたら、とつぜん旧型の水飲み場になってしまった。
ちょっとこれは差、ありすぎなんじゃないのー。 日比谷線は広尾とかお金持ちゾーンを通るから、水なんか飲まんということか。
とはいえ物哀しいのは六本木駅だけで、お隣りの神谷町駅は東芝の冷水機が設置されていた。清潔感はイマイチであんまり飲みたい気はおきないが、でもじゅうぶん冷たい。 地下鉄の水飲み場は、なんでこんなに充実してるんだろう? 屋内だから冷水機が設置しやすいのかな? 災害が起きて乗客が閉じこめられることを想定してるんだとすれば、ちょっと怖い気もする。
「足洗い場」の謎を解く
私鉄の小田急線に乗ってみたら、ホーム改良工事後の駅は、左のようなユニバーサルデザインの水飲み場を設置してあった。冷水機じゃないから、冷たくないのが残念。
それにしても、水飲み場の横の蛇口は何だ。 たぶん手洗い場だと思うのだがやたら低い。海水浴場でよく見る「足洗い場」みたいだ。 と、じーっと見てたら鳩が歩いて来て、手洗い場つうか足洗い場つうか、そこで水を飲み出すではないか! あーそっかあ、鳩用だったのかあ(違う)。
公園の水飲み場はどうなっているか
駅ホームの水飲み場事情はおおかたわかったので、屋外水飲み場の雄、公園に行ってみた。場所は、可愛い水飲み場があるという用賀の大蔵公園。 しかし目にしたものは……
苔むしてる。不潔きわまりない。サイテー!! こんなところで水飲むぐらいなら、噴水の水でも飲んでたほうがましだ。こんなとこの水、子供に飲ませられないよ!
東京都のずさんな公園管理に怒りながら園内をうろうろしてたら、手押しポンプの井戸があった。
「災害時に使うので水の出をよくするために、水を出して遊んで下さい」とある。なので、じゃっこじゃっことポンプを押してみた。
おお、出る出る。 この水は飲めないそうだが、あんな凶悪水飲み場しかなかったらつい飲んでしまうのではないか。
しかし可愛い水飲み場、ないなー。 すると「幼児公園」でいきなりスペーシィな看板に出くわす。
なんでこんなもんがあるのか、意図はいまひとつ不明な看板の奥に、何やら緑色の物体があった。
わ。カッパ。それも2人いる。
ひょうたんから水、脳天からも水。 このカッパも苔むし系だが、全身緑色なため、苔が目立たない。
なかなかユニークな公園だこと……と感心していたら、受話器型ライドの向こうにも何やら怪しげな白い影が…。
そもそも、なんでライドが受話器なのか。いや、受話器じゃないかもしれないけど。でもやっぱどう見ても受話器だ。
そんで奥の白い影はこれ。
ふぐである。 まあカッパはわかるけど、ふぐって。 製作者の意図がまったくつかめない。 「水に関係ありそうなものって?」「魚でしょう」「魚ねえ……何にしようか」「ふぐってどう?」「あ、そりゃいいですね、ふぐね。ユーモラスだしね」などと、昼イチの企画会議で決まったのかもしれない。
この上目遣い、このくわえっぷり。 単なるふぐではなく、「しびれふぐ」とでも名付けたい顔つきだ。 ああもう、ほとばしっちゃってますよ!
まあそんなヤバげなふぐだけど、大蔵公園においてはもっとも清潔な水飲み場であった。
給水拠点としての水飲み場
自販機でお茶買うのが当たり前になっていて、存在感が希薄だった水飲み場。しかし街中には予想外にたくさんの水飲み場があって、それなりにグレードも違うことがわかった。 都営の水飲み場はホント使えるし、東京メトロも頑張ってる。 地下鉄乗るなら、お茶を携行しなくても良さそうだ。 いざという時のために、水飲み場は知ってた方がいいような気がする。あと、より大規模な水飲み場ともいえる災害時の給水拠点も、調べておこうと思った。