「発泡スチロールを切るカッター」というものを、しばらく前に特集記事のために購入した。
以来、必要なときがくればそれをいそいそ持ち出し、有効に活用してきた。いや、このカッターを使うために企画を考えたこともあった。それほどに魅力的な道具だといえよう。
普通に切ればプワプワと、崩れた切れ端が舞ってしまう発泡スチロールが、電熱線でメリメリ切れていく快感。
もっと何かこれでお遊びはできないものか、と考え、前からやってみたかった「紙切り芸」に応用してみました。さあお立ち会い。
(乙幡 啓子)
テレビで皆さんもご覧になったことがあるだろう、「紙切り芸」。一枚の紙を、途中途切れることなく、しかも話術と踊るような仕草で場を盛り上げながら、繊細なシルエットをハサミで切り出すアレだ。いっぺんやってみたかった。
しかしよく見ると「芸者の立ち姿」や「鶴」など、ものすごく細かな輪郭を表現しているものが多く、さすがは伝統芸、とても素人の太刀打ちできるものではないのだった。なら、俺のフィールドで勝負だ!いつからスチロールが俺のフィールドか!しかしとにかくやってみよう!と相成りました。
形から入るのが常とは言え、寄席に上がれるような羽織の用意ができず。デパートで、隣にかかっていた女性用浴衣に心を残しながら、仕方なく男性用甚平を買った。
さて、自分でこればかりは写真を撮るのが難しいので、nifty古賀さんに応援を頼んだ。場所もniftyの会議室をお借りした。観客のいない寄席の始まりで御座います。
机に正座させていただき、ご無礼も甚だしく、誠に恐縮の極みでございます。なにとぞしばしのご容赦。
しばらくぶりに工作をするので、手元が危うい。それにこのカッターは電熱線を利用しているので、ちょっとぶれてもすぐ切込みが入ってしまう。そこになんとか体の動きもつけたい。では肩慣らしと行こう。まずは簡単な形から切っていきましょう。
むろん、下書きなどしていない。出たとこ勝負。真っ白な板に、適当にアタリをつけて切っていくわけで、そうなるととても踊っている場合ではないのだった。カッター熱いし。なので静かに慎重に切っていくことにして、しかしできたのはこれだ。
「電気ポットと急須」でもよかったかもしれない。
・・・さあどんどん参りましょう。今度は自分の好きなものを切りますので、大丈夫でしょう。迷わないでしょうとも。
普段よくこれを落書きしているので、すんなり切れた!というわけでこれ、オニオオハシです。
写実を捨てたがゆえの成功?だった。胴体が漫画みたいになったが、一気に切り取る胆力がちょっとついたかもしれない。次は文字、行ってみましょう。デイリーポータルZの「Z」!
紙切りの神が私に降りてきたようだ。なんだこの急激な成長具合は。
神は私に、何をさせたもうか。気をよくして、大物に行くことにする。再び漫画に挑戦。しかも人間の全身像です。
あとから目と額のマークと口を切り足してみたら、これは一筆でいけるではないか。このままでは心がすっきりしないので、あくまで「一筆切り」にこだわり再度挑戦してみる。すると・・・
いったん輪郭を切ってからよりも、アタリをつけにくい分、数段難しい。偽Z君が現れてしまった。Z君、後ろ後ろ!
ではここらでひとつ、客席の皆さんからリクエストをいただきましょうかね。はい、そこの2列目のお嬢さん。
エアギターの記事でおなじみとなった、宮城さん。ここでもお姿をお借りします。
いや、今回は実在の人物なので失礼のないよう、写真を見て作らせていただいた。
ほう。もしかしてカメオの職人くらい本人に迫ってないか?ないか。
うーん。面白い。型抜きの快感と絵画の楽しみが一気に味わえる。一発で線を決めなくてはならないところなど、ロートレックの速描きスケッチのようだ。
いっそひとりで勝手に精進して地方をまわろうか。「発泡亭スチ子」とでも名乗らせてもらって。