ご存知のように、チクワには穴が空いている。
「…いったい、なんのために?」
そう思ったことはないだろうか。いや、あれが制作過程で出来る穴だというのは知っている。知ってはいるが、気になる。
ある日、チクワを眺めていて「ひょっとして、何かを詰めて欲しいのではないか」と考えた。
そこで、お望み通り(望んでないかもしれない) あれこれ詰めてみることにしました。
(高瀬 克子)
思い出のチクワ
そういえば私の母は、しょっちゅうチクワにキュウリを詰めていた。作り方が簡単なわりに見栄えがよく、父の晩酌のアテにも好評だったことから、食卓にはよく「キュウリ詰め」が並んでいた。
今回はキュウリはもちろんのこと、様々なタイプの食材を詰めていこうと思う。チクワの懐の広さに期待したい。
まずはキュウリから
実家暮らしだった頃に何度も食べているので、私にとっては馴染みの味だ。「これもオフクロの味になるのだろうか」と思うと少々情けないが、事実なだけに仕方がない。
キュウリのサクサクと、チクワのモッチリした食感が楽しい。ビールにも日本酒にも合うし、なんで居酒屋の定番メニューにならないのか不思議なくらいだ。「カッパ巻き」ならぬ「カッパ詰め」として、どこかの店で出してくれることを期待したい。
続いてアボカドを詰めてみた。
ヌルッと滑るわグチャッと潰れるわ、まるでアボカド自身が詰められることを拒否しているかのようである。
「俺はチクワごときに詰められる人材じゃねーんだよ」と言いたげであったが、味は普通においしい。一方のチクワ、黙して語らず。「イヤなら無理に詰められなくても結構」といったところか。大人の対応を見習いたい。
さて次は、かいわれ大根に詰まってもらおう。
お、これは大変おいしくできた。カイワレのピリッとした辛みとチクワのほのかな甘みがよく合い、酒のツマミとしてちょうどいい。
「いやぁ、カイワレさんのおかげでパンチのあるツマミとしてやっていけそうです」とチクワが語った(ように思えた)。好相性の一品。
ツブツブを詰める
これまでは、ある程度大きさのあるものを詰めてきたが、今度は少し細かいものを詰めてみたい。まずはツブツブ集合体の代表格ともいえるゴハン粒だ。
なんといいますか、これは普通にうまい。「アリ、ナシ」でいえば、完全に「アリ」だ。「おにぎりの具にチクワはないが、チクワの具にゴハン粒はある」と言わせていただきたい。
気をよくして、次なるツブツブを詰めよう。
甘めの炒り卵とチクワが、お互いに「いいね、いいね」と褒め合っている、そんな味。これは子どもに人気が出そう。詰めるのが多少面倒ではあるが、その手間が確実に味に反映されている。見た目も可愛いし、オススメです。
どれもこれもウマイ
ここまで、どの相手ともうまくやれているチクワだが、次は少々ガツンとした物を詰めてみたい。
このソーセージ、主成分は豚肉と鶏肉だ。対するチクワは、タラ等の白身魚から構成されている。
口の中で両者がケンカするかと危ぶんでいたが、なんのなんの。まずはソーセージが、その存在を思う様アピール。続いてチクワがおずおずと「実は私もいますよ」と静かに主張している。ビールがぐんぐん飲める味と言わせていただきましょう。
肉が合うなら、当然魚も合うハズだ。合わなかったら大変だ。
マズイわけがない。無駄に豪華で、無駄においしい。鯛にとっては屈辱的な扱いだったかもしれないが、そこは謙虚なチクワのことだ、「あなたをお迎えできるなんて光栄です」と鯛のプライドを微妙にくすぐり、相手を立てる結果となった。鯛の甘みがより引き立つのだ。
処世術に長けたチクワ
ここまで食べてきて分かったことだが、チクワは決してケンカをしない。相手が誰であれ、まずは先方を立てる。常に低姿勢であり、一歩下がって物事を見ている。なんて人間が(チクワが)出来ているのだろう。
しかし、次からの展開はいささか心配だ。いかに穏和なチクワといえどもキレてしまうのではないだろうか。
チクワの顔色をうかがいながら、こんなものを詰めてみました。
…どこまでチクワは度量が広いんだ。ジューシーで非常においしい。シャクッ、モチッ、ジュワーだ。これはまるで「生ハム&メロン」の和風バージョンではないか。
なかなか腹を立てないチクワに、さらなる難題をぶつけてみた。
ああ、これも普通に食べられる。すごい。チクワ恐るべし。ならば、これはどうだ。
トッポ自体が「チョコ詰め」だ。それをチクワに詰めるという二重構造。まるでマトリョーシカ人形のような物が出来上がったが、これが不思議とそうマズくない。…なんでだ?
考えられる理由は2つ、まずはチクワの淡泊さだ。誰と組んでも自己主張をせずに相手に合わせるその性格。そしてもう1つが、私の舌がバカだということ。もう、それしか考えられません。
チクワは寛容だった
トッポでさえもオッケーなことに驚いたのは、私だけでなくチクワ自身も同様だったろう。
私も滅多に腹を立てる方ではないが「たまには怒った方がいいよ」と助言をしたいほど、チクワはなされるがままだった。いや、そんなところがまたステキなんですが。
…惚れたかもしれません。