百円均一で買ったすごい黒メガネ。レンズが入っているわけでもないのにものがよく見えるようになるらしい。
その機能も確かにすごかったのだが、実際にかけてみたら予想外のすごみが出てきた。
なんだかわからない迫力をかもし出すメガネ。今回はこれまでのメガネ観にとらわれず、自由なスタンスでメガネを活用してみました。
(text by 小野 法師丸)
●たぶんすごいメガネ登場
百円均一の店で見かけて買ってみたこのメガネ。どうも普通ではない効果が秘められているらしい。
レンズ部分が透明になっているのではなく、黒いプラスチックに細かい穴が開いている状態になっているのがおわかりになるだろうか。どういう理屈なのかはわからないが、視力の低い人でも小さい穴を通して見るとものがはっきりと見えるらしい。
人差し指を丸めて作った小さな穴からのぞいて見てもその原理が試せる。裸眼でぼやけていたものも、なぜだかはっきり見えるのだ。
おお、確かによく見える。たくさんの穴から一度に見るためか、全体的に像が二重になって見える感じではあるのだが、とにかくピントは合っている。
ただこのメガネ、自然とかもし出てくる迫力はなんなんだろう。
スーパーの駐車場でカートを押していてもこの感じ。単なる日常のひとこまなのに、わけのわからないすごみが出てしまう。
特売の菓子パンを選んでいるというだけなのに、この真剣味はなんなんだろう。手にしているのがメロンパンだというところまでわかって見ると、何をそんなに真顔になってるんだと逆に間抜けな感じもしてくる。
そもそも、確かにこのメガネをかけるとよく見えるようになるのはいいのだが、別に普通にいつものメガネをかけてもよく見える。
気づいてしまうとメガネのすごさに対する感動も薄れる。
しかしこの無意味な迫力は黒メガネならではのもの。自分以外のものたちにもいろいろかけさせて迫力を出してみたい。
●メガネ応用編
結果的に迫力が出たものを見ていると、なんとも言えない気持ちになってくる。別に迫力なんてなくていいものならなおさらだ。
きみたちなんなんだ、メガネかけただけなのに。急に別人になったような気がするではないか。強力なメガネオーラがそこにはある。ちょっとかけてみただけでこの変貌ぶりはすごい。
その威力は生き物をモチーフとしたものではない物体に対しても遺憾なく発揮される。
メロンにこんな迫力なんて求めてない。メガネをかけただけで急に人間っぽくなるメロン。
そう書いてみて気づいたのは、ここでは「人間らしさ=メガネ」となっていること。それはやっぱりおかしくないだろうか。人間が人間であることの象徴とは、意外とメガネだったのか。
おもしろくなってどんどんかけさせていくメガネの勢いは止まらない。人間とは何かという問いなんてどうでもよくなってしまうたたずまいをどんどんかもし出していく。
こうして集めて並べると、メガネをかけたとは言え黙っていたものたちがしゃべり始めたようにも見えてくる。「毎日火にかけられてさ、やってらんないよ!」
予想を超えた応用範囲の広さ。黒いメガネ越しの無機物の視線は、見る者の内にある何かを見透かしているかのようにも見える。
などと意味ありげなことを書いてはみたが、実のところは何も言ってない。どんどんメガネかけさせるとなんか楽しいよね。今回の試みのメッセージ性はそれだけだと思う。
●黒いメガネで出てくる意味のない迫力
なんとはなしにサボテンに引っ掛けてみたところ、やはり人間性のようなものが出てきてしまった。
もし今後、黒メガネを使うことがあったなら、うかつに置いたりしない方がいい。そこに無駄な迫力が発生しているかもしれないからだ。
ちなみに記事冒頭の写真は鶏のカラアゲで有名なおじさん。写真を見て改めて思うが、やはり店先に立つシンボリックな像には変な迫力なんてない方がいいようだ。
ライター・小野法師丸の個人サイト「テーマパーク4096」での日替わり読み物コーナー「コラム息切れ」をまとめた本が出ることになりました。書き下ろし記事「月刊鎧ライフ」では、マイ鎧を着用して12のミッションを敢行した悲喜こもごもを掲載しています。