長年の友より親切な他人
「あれーまだ火、着かないんですか?」
とあきれた様子の青年、登場。
「空気の抜け道を作らないとダメですよ」
いきなり私たちの組んだ薪をせっせと取り出して手際よく組みなおしてくれる。
土「す、すごい。ただ者ではないですね」
伊「お兄さん、何者ですか?」
兄「今朝、夜行で金沢から来たんですよ」
伊「やっぱり」
まるっきり会話になっていない言葉を交わしつつ、ダンボールのはし切れで必死で風を送り込んでくれる青年。 額にはうっすら汗がにじみ出している。
伊「お兄さん、アウトドア派ですね。今日はどこにお泊まりですか」
兄「いえ、今日帰るんですよ」
土「え!今日来て今日帰る?」
兄「はい」
伊「アウトドアですね」
兄「そうですか、ははは……」
気を良くした青年がさらにあおぎピッチをあげて汗だくになった頃、近所の女性が『Wうちわ』を持ってきて力を貸してくれた。
横にうちわを振るのではなく上下に振るといいそうだ。ものすごいパワーのあおぎ方であっという間にうちわがボロボロになってしまう。
青年と女性の握ったうちわはバサバサバサバサと激しい音をたて、なんだか職人ワザを見ているような気分になった。
そのへんで遊んでいた子供たちやおじさんもそのあおぎっぷりに見とれていたようで、待望の火が燃え上がった時にはちょっとした歓声があがることとなった。
土「わーゴッドハンドですねー」
伊「どうぞ一番風呂に入っていって下さい」
兄「いや、いいですよ……」
なんて謙虚な人々だろう。
「よし、火が着いたからこれで大丈夫。あとはひたすらあおいで空気を送って下さい」
「え……」
その後、私たちはただひたすらに後出しジャンケンをしながらあおぎ続けた。
無意味にバサバサ音もたててみた。
おじさんが服は脱ぐのか脱がないのか執拗に聞いてきたり、女の子が天使のようなウラ声で
「も〜えろよもえろ〜よ〜炎よも〜え〜ろ〜。火〜の粉をまきあ〜げ〜 天までとどけ〜」
とそのフレーズだけを何回もくりかえし歌ってくれたりもしたが、最後には周囲に誰もいなくなってしまった。 |