旅行に行くとなると僕らは鞄に荷物をつめる。それが海外旅行ともなれば鞄は大きくなることだろう。それが普通だ。
しかしである。
実は旅行に鞄は必要ないのかもしれない。コンビニ袋ひとつで何の問題もなく海外旅行に行けてしまう時代になっているかもしれない。というか、なっていた。
不自然な一次会
春の気配を感じ始めた3月の終わりごろ、編集部の安藤さんから打ち合わせをしましょう、と連絡があった。特になにも持って来なくていいので、ということだった。ただパスポートを持って来てくれと言われた(エイプリルフール企画でポーランドのチケットを取るのに必要だからと聞かされていた)。
その連絡の際に、打ち合わせ後、数日のスケジュールを聞かれたような気がする。3日後に予定があると伝えると「分かりました」と安藤さんはそれこそ春のそよ風のように優しく答えた。なので、打ち合わせには何の資料も持たず、行きがけにコンビニでお茶を買って出かけた。
品川での打ち合わせ。場所は居酒屋。打ち合わせはウーロン茶を飲みながら粛々と行われた。次の企画はどうしますか? もっとこうしたらいいんじゃないですか? など内容はいつも通り。場所が品川という以外はいつもと同じだ(普段の打ち合わせは新宿)。
「移動して飲みますか」ということになり、電車に乗り二次会へと行くことになった。その乗った電車の行き先が羽田空港だったので、安藤さんの記事には書かれていないが、僕は「これは!」と思ったのだった。打ち合わせ後のスケジュールを聞かれていたので、どこかに連れて行かれるのではと勘が働いたのだ。
まさかの海外
案の定着いた先は羽田空港だった。間違いなくどこかに連れて行かれると確信を持った瞬間だった。「では、どこだ?」と冷静に歩みを進める安藤さんの後ろで悩んだ。最近の安藤さんとの会話を思い出しヒントを探したが、日本は広い。どこなんだ、と考えている間に安藤さんはチェックインに向かった。
チェックインしようとした瞬間にすべてが分かった。行き先は「タイ」だ。疑う余地がない。安藤さんの隣にタイの人が立っている(パネルだけど)。羽田空港の国際線ターミナルに連れてこられた辺りから「まさか・・・」とは思っていたが、そうか海外か、海外なんだ、と笑ってしまった。人は驚いたら笑うのだ。
「本当ですか?」と聞いたけれど、渡されたチケットにはキチンと僕の名前が書いてあった。
今日持ってきたパスポートもエイプリルフールに行くポーランドのチケットを取るのに必要だからと聞かされていたが、本当はタイのためだったのだ。しかもe-チケットなので番号さえあれば発券できるのだという。ラク。だがそのラクがいまは憎い。だって何の準備もしてないのに海外だもの。
僕は海外には高校の修学旅行でしか行ったことがなく、海外旅行はチケットを取るのも面倒な手続きが必要なのだと思っていた。しかし実際はそんなことはなく、ポーランドのために渡していた情報でタイのチケットも取ったそうだ。海外旅行が1着買ったらもう1着ついて来る! みたいなスーツ感覚だとは知らなかった。
「そんなに簡単にチケット取れるんですか?」と安藤さんに聞くと「トルノスで簡単でしたよ!」と友達なら軽くグーパンチする感じで軽やかに答えられた。トルノスというのは航空券とホテルの予約サイトである。簡単と言われてもにわかに信じられないが、いまなら説得力がある。面倒ならこんなことしないもの。
コンビニ袋しか持っていない
あまりに身軽すぎて心配で、空港のコンビニで何となくティッシュを買って飛行機に乗り込み、羽田からタイに向かい飛び立った。羽田から国際線が飛んでいることも忘れていた。僕の日常生活に海外という選択肢は今まで一度もなかったのだ。言葉の壁などは大丈夫だろうか。
空港で二次会はタイですから、と言われ「タイ料理は食べたいな!」と前向きになっていたのだけれど、ほぼ手ぶらで大丈夫なのかと相変わらず心配でもあった。(国内旅行でももっと荷物が多い)。ただ、いくら心配しても飛行機は途中下車できないわけで、タイに到着してしまった。